翌日は妹の奈津美一家が帰省し、束の間の賑やかな団らんに父も母も嬉しそうにしている。
娘達が嫁いでからは以前の賑やかな空気は消え去り、老夫婦だけの静まり返った大崎家になってしまった。
「よし、今日はこれからイオンに行って、皆んなの好きな物一つだけ、バァバが買ってあげるよ〜!」
「やったーーー!」
合計4人の孫達が、それぞれ自分の欲しいものを叫び出して何が何だか分からない。
「お母さん、子供達も大きくなってきてさ、欲しい物、結構するよ。無理しなくていいって」
絵奈が母親にコソッと告げるが
「良いの良いの!バァバこの為にパート頑張ってるようなもんだから!」
絵奈の心配は不要のようだ。
「まぁまぁお義父さん、飲んでください」
孫達がそれぞれ好きな物を手に入れ、全員ご機嫌な中、母がこしらえた高級すき焼きで団らんが始まった。
信一が父のグラスにビールを注いだ。
「はあーー、美味しいなぁ。絵奈も奈津美も、昔はおてんばで聞かない娘達だったけどさ、こうやって立派になってさ、可愛い孫達も連れてきてくれて…、勿体無いくらい立派なお婿さんと結婚できて…、もうジィジ、明日にでも天国にいけるっ!」
父はビールをグイッと飲み干しながら、目を潤わせた。
「もうお父さん、そんな飲んだら本当に倒れるんだから!」
絵奈が忠告するも、歓喜余った父親の耳には届いていないようだ。
「信ちゃん、もういっぱいちょうだい!!」
「ハイ笑!ビールで良いですか?」
「OK!」
息の合った掛け声で、信一は父のグラスに丁度よくビールを注ぐ。阿吽の呼吸で父も義理の息子にビールを並々注いだ。
「ハイ、信ちゃんも飲んで!」
「いただきます!」
沢山遊び、はしゃぎ疲れた子供達、孫とはしゃぎ疲れた祖父母達は早々に夢の中へ。
静まり返ったリビングで、絵奈は大量の洗い物を1人片付けていたところ、奈津美が勢いよくリビングの扉を開き、どかっとソファーに座り込んだ。
「はぁーーー、ようやく皆んな寝てくれた!3人ってホント疲れる。ウチに比べて、胡桃はいい子だよね。」
「胡桃、、今だけだよ?でも小2になってだいぶ落ち着いたかも。ほんと奈津美のところ、皆んなパワフル!オレンジジュースいる?」
「え、ビールが良い!」
奈津美は酒豪だ。
「まだ飲むんかい笑!」
絵奈もつられてもう一本ビールをあけた。
「改めて姉妹で乾杯!!」
「そういえばさ、小中で一緒だった上岡さん知ってる?プロバスケの。奈津美も同級生だよね?この前試合見たんだ!」
「あー、雅治ね!結構前に飲んだなー!凄いよね、プロだもんねー!!」
「だよね!少し前まで胡桃が同じチームの選手にハマっててさ、試合見に行ったら写真撮ってもらっちゃった!」
絵奈はスマホ画面を奈津美に見せた。
「あ、雅治!相変わらずでっかいねー!…え、お姉、雅治と友達だった?」
「いや、お兄さんが同級生!たまたま会ってさ」
「雅治のお兄さんって…、あのイケメンの?」
何で奈津美はこういう情報は知ってるんだろう。
「そうだね。身内のコネを使わせていただいた!」
「へぇ〜。祐太郎先輩でしょ?私、実は少しファンだったんだ。今もイケメンなの?」
「…どうだろね?もう40だし、お互い老けたよ」
「まぁそうだよねー。私も40になりたくない!」
「早くおいでー、こっちの世界へ!」
絵奈は両手で自分の頬を挟むと、自虐的に引き下げてみせた。奈津美は大笑い。
「ギャハハ、お姉、ヤバいよ!50位に見えるって!」
まったく、祐太郎君といい、奈津美といい、私の周りの人間は私をオバサンいじりしたくて仕方ないらしい。
昨日祐太郎君に会ったなんて、ましてや好きって言われただなんて…、口が裂けても言えないな。
「ダメだ、信一君弱すぎる」
奈津美の夫、雄介が勝ち誇った様子でリビングに入ってくると、ソファーにどかっと腰掛けた。
「雄介君が強すぎるんだよ!もう無理だ」
信一も入ってきてはソファーに腰掛け落胆している。
「2人して何やってたの?」
奈津美の呆れたような問いに、義理の兄弟は口を揃えて答えた。
「スマブラ」
信一は、絵奈には勿体ないくらいよく出来た旦那だと、絵奈の周りの全員が口を揃える。
もちろん、絵奈もそう思っている。
勉強もスポーツも出来ず、要領が悪く、自己肯定感の低い絵奈は、彼氏が出来ても全員がモラハラ、DV、借金のいずれかに該当する。それでもめげずに好きになった人を追い続けていたが、そのエネルギーが切れた数年後、今までの彼氏とは真逆のタイプである信一に出会い、結婚した。
初めは物足りないと思った信一だが、今までの苦労を全く味わわなくて良い環境が絵奈にとっては新鮮だった。
結婚後の周りからの評判もすこぶる良い。
両親からはべた褒めされ、毎年絵奈、胡桃と同じくらい信一の帰りを楽しみにしている。
妹の夫である雄介とも本当の兄弟のように打ち解けていて、大崎家にとって信一は「娘以上に最高の息子」なのだ。
まさか、昨晩、同級生の既婚者にキスされたなんてバレた日には、終わる。
私には家族が居なくなる。
天涯孤独が約束される。
そもそもこんなに優しい信一を裏切るなんて、私自身が許せない。
絶対に、許せない。
娘達が嫁いでからは以前の賑やかな空気は消え去り、老夫婦だけの静まり返った大崎家になってしまった。
「よし、今日はこれからイオンに行って、皆んなの好きな物一つだけ、バァバが買ってあげるよ〜!」
「やったーーー!」
合計4人の孫達が、それぞれ自分の欲しいものを叫び出して何が何だか分からない。
「お母さん、子供達も大きくなってきてさ、欲しい物、結構するよ。無理しなくていいって」
絵奈が母親にコソッと告げるが
「良いの良いの!バァバこの為にパート頑張ってるようなもんだから!」
絵奈の心配は不要のようだ。
「まぁまぁお義父さん、飲んでください」
孫達がそれぞれ好きな物を手に入れ、全員ご機嫌な中、母がこしらえた高級すき焼きで団らんが始まった。
信一が父のグラスにビールを注いだ。
「はあーー、美味しいなぁ。絵奈も奈津美も、昔はおてんばで聞かない娘達だったけどさ、こうやって立派になってさ、可愛い孫達も連れてきてくれて…、勿体無いくらい立派なお婿さんと結婚できて…、もうジィジ、明日にでも天国にいけるっ!」
父はビールをグイッと飲み干しながら、目を潤わせた。
「もうお父さん、そんな飲んだら本当に倒れるんだから!」
絵奈が忠告するも、歓喜余った父親の耳には届いていないようだ。
「信ちゃん、もういっぱいちょうだい!!」
「ハイ笑!ビールで良いですか?」
「OK!」
息の合った掛け声で、信一は父のグラスに丁度よくビールを注ぐ。阿吽の呼吸で父も義理の息子にビールを並々注いだ。
「ハイ、信ちゃんも飲んで!」
「いただきます!」
沢山遊び、はしゃぎ疲れた子供達、孫とはしゃぎ疲れた祖父母達は早々に夢の中へ。
静まり返ったリビングで、絵奈は大量の洗い物を1人片付けていたところ、奈津美が勢いよくリビングの扉を開き、どかっとソファーに座り込んだ。
「はぁーーー、ようやく皆んな寝てくれた!3人ってホント疲れる。ウチに比べて、胡桃はいい子だよね。」
「胡桃、、今だけだよ?でも小2になってだいぶ落ち着いたかも。ほんと奈津美のところ、皆んなパワフル!オレンジジュースいる?」
「え、ビールが良い!」
奈津美は酒豪だ。
「まだ飲むんかい笑!」
絵奈もつられてもう一本ビールをあけた。
「改めて姉妹で乾杯!!」
「そういえばさ、小中で一緒だった上岡さん知ってる?プロバスケの。奈津美も同級生だよね?この前試合見たんだ!」
「あー、雅治ね!結構前に飲んだなー!凄いよね、プロだもんねー!!」
「だよね!少し前まで胡桃が同じチームの選手にハマっててさ、試合見に行ったら写真撮ってもらっちゃった!」
絵奈はスマホ画面を奈津美に見せた。
「あ、雅治!相変わらずでっかいねー!…え、お姉、雅治と友達だった?」
「いや、お兄さんが同級生!たまたま会ってさ」
「雅治のお兄さんって…、あのイケメンの?」
何で奈津美はこういう情報は知ってるんだろう。
「そうだね。身内のコネを使わせていただいた!」
「へぇ〜。祐太郎先輩でしょ?私、実は少しファンだったんだ。今もイケメンなの?」
「…どうだろね?もう40だし、お互い老けたよ」
「まぁそうだよねー。私も40になりたくない!」
「早くおいでー、こっちの世界へ!」
絵奈は両手で自分の頬を挟むと、自虐的に引き下げてみせた。奈津美は大笑い。
「ギャハハ、お姉、ヤバいよ!50位に見えるって!」
まったく、祐太郎君といい、奈津美といい、私の周りの人間は私をオバサンいじりしたくて仕方ないらしい。
昨日祐太郎君に会ったなんて、ましてや好きって言われただなんて…、口が裂けても言えないな。
「ダメだ、信一君弱すぎる」
奈津美の夫、雄介が勝ち誇った様子でリビングに入ってくると、ソファーにどかっと腰掛けた。
「雄介君が強すぎるんだよ!もう無理だ」
信一も入ってきてはソファーに腰掛け落胆している。
「2人して何やってたの?」
奈津美の呆れたような問いに、義理の兄弟は口を揃えて答えた。
「スマブラ」
信一は、絵奈には勿体ないくらいよく出来た旦那だと、絵奈の周りの全員が口を揃える。
もちろん、絵奈もそう思っている。
勉強もスポーツも出来ず、要領が悪く、自己肯定感の低い絵奈は、彼氏が出来ても全員がモラハラ、DV、借金のいずれかに該当する。それでもめげずに好きになった人を追い続けていたが、そのエネルギーが切れた数年後、今までの彼氏とは真逆のタイプである信一に出会い、結婚した。
初めは物足りないと思った信一だが、今までの苦労を全く味わわなくて良い環境が絵奈にとっては新鮮だった。
結婚後の周りからの評判もすこぶる良い。
両親からはべた褒めされ、毎年絵奈、胡桃と同じくらい信一の帰りを楽しみにしている。
妹の夫である雄介とも本当の兄弟のように打ち解けていて、大崎家にとって信一は「娘以上に最高の息子」なのだ。
まさか、昨晩、同級生の既婚者にキスされたなんてバレた日には、終わる。
私には家族が居なくなる。
天涯孤独が約束される。
そもそもこんなに優しい信一を裏切るなんて、私自身が許せない。
絶対に、許せない。

