「胡桃、何やってるの?試合始まっちゃうよ!」

マイペースに前髪をセットする胡桃の様子に苛立った絵奈は、強めの口調と鋭い視線を胡桃にぶつける。

「あー、いつもママがそうやって怒るから髪が決まらないんだよ!」

いつもの如く娘の逆ギレを喰らった母親は、慣れた様子で大きなため息をつくと、娘の鞄を玄関先にセットした。

今日は胡桃がずっと楽しみにしていた、「チームレジェンガ」のバスケットボールの試合を見に行くのだ。
推しの選手は二階堂選手。高身長に似合わない女の子のような顔立ち、そして力強いプレーの虜になった胡桃は、彼を追いかけて約1年。
「ママ、準備できた!行くよ!」
胡桃は二階堂選手のイメージカラーであるピンクのシュシュを母親に得意気に見せつけると、軽やかに家を飛び出した。

胡桃も大きくなったなぁ。
絵奈は感慨深くため息をついた。今年で小学2年になる一人娘の胡桃。
少々頑固で生意気なものの、両親の愛情たっぷりの元大切に育てられた胡桃は、優しくて活発で、かつ芯の通った、自分の娘とは思えない程立派な娘に成長した。

最近はあどけない子供の影も年々薄れていき、大人びた様子が見え隠れするようになっている。

子育て期間もそろそろ終わるのだろうか…?
絵奈はぎゅっと胸が締め付けられる感覚を覚えると、その想いを振り切るように胡桃の後を急いだ。