神隠しの誘い水

 花の雨が降る。

 虚無感に朽ちた器は、雨音さえ響かない。


 季節も、自分の名も、ここがどこなのか、さえわからないまま、私は雨宿りをしている。


「おれの名前は覚えてるか?」


…………なんだった、っけ…………


思い出せない思い出せない思い出せない


「いいんだよ。忘れてる方が、ずっとずっと幸せだ。幸せでいられる」


 このねっとりとした甘い毒に、私は嵌ってしまった。


 永遠に終わらない雨宿りをしている。



 ………でもどうしてか、雨が、はやく、止まないか、願ってやまない。