雨。それは神凪の声。誘い水に、つられてはいけないよ。
花の雨が降る日。神社で出会った青年は意味深な言葉だけを言い残して……その先の記憶は雨音にかき消されて、よくは覚えてない。
今年の夏は異常だった。空梅雨に始まり、初夏が始まってからも雨が降らない日は続いた。こんな日が永遠に続くとは思わないが、心の奥底でなぜか“雨が降らなければいいのに、このままずっと……”なんて願う自分もいる。
「いつ雨が降るのかなー」
「このまま降らないんじゃない? 天気予報の人でもわからんみたいだし」
「じいちゃん泣いてたわ。畑の野菜がダメになったって」
初夏の教室の会話は雨への興味関心であふれている。答えのない話を延々と繰り返し、終いにはみんな黙り込んでしまった。
拭いきれない不安感だけを残して、この日の学校は終わった。
友達の由香里も家族団らんの夕食が憂鬱だと言っていた。雨の話題で毎日ピリピリしていて、天気予報士にまで飛び火しているらしい。
雨が降らないだけで、色んな人が奔走している。
雨が降りすぎてもやはり、人は奔走している。



