風の音に恋して

ある夜、兄が眠ったあと。
リナはこっそりリビングのパソコンを開いた。
検索ボックスに、そっと言葉を打つ。

「音楽 子ども 学校 寮」

そして見つけたのが──「聖フィリア音楽院」だった。

東京。入学倍率50倍。児童部の全国オーディション。
それはあまりに遠くて、手が届くはずのない場所に思えた。

でも、挑戦してみたかった。

誰かに認められるためじゃない。
うまくなりたいからでもない。

ただ、自分の中にあるこの“音”が、どこまで届くのかを、知りたかった。

リナは、応募用紙を印刷し、小さな引き出しにしまった。
まだ誰にも見せない。
でも、その紙には、風のように静かで強い決意が宿っていた。

──それが、リナの交響曲の第1楽章の終わりだった。