フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜

楓はぽかんとする。
 
もしかして、私のために怒ってくれている?
 
まさか、そんなことあるはずないと思うけれど、でも……そうなのだろう。
 
胸に温かいなにかが広がった。思えば彼ははじめから楓の妄想癖を笑ったり軽蔑したりはしなかった。
 
みんな違ってみんないい。
 
かの有名な詩は、学生時代の楓にとっては、キレイ事。大嫌いな言葉だった。それは今も同じはず。
 
そのはずだけれど……。

「に、人間ってそういうもんですよ。悪いところもいいところもあって、だから相手が悪いとは思いませんけど。……そんな風に言ってくれるのは伊東さんくらいです。ありがとうございます」
 
少し感動しながらそう言うと、伊東が照れたように目を逸らして水を飲んだ。

「いや、偉そうにごめん」
 
ふと楓は、もしかしたらこれが本当の彼なのかもしれない、と思った。
 
会社でのにこやかすぎる顔でもなく、やたらと高圧的でもない。ぶっきらぼうなところはあるけれど、思いやりのある言葉をくれた今の彼が。
 
そして、相手の大切にしているものを、自分の物差しで測ったりしないところが素敵だと素直に思う。
 
世の中がこういう人ばかりなら、自分ももっと外の世界へ行けるのに。

「今日の伊東さん、素なんですね。ちょっと意外でした。エスコートって言うから会社でのキレイな伊東さんなのかと思っていたので」
 
すると伊東が、一瞬、虚をつかれたように瞬きをした。

「まぁ、はじめはそうしようかと思ったけど……」
 
しばらく考えた後、ニヤリと笑い、いつもの伊東になって問いかける。

「今更だろ。演技してもバレバレなら白けるだろうし。なに? 優しくて紳士な伊東さん方がよかった?」

「いえ、そんな。ただ意外だっただけです。私は素顔の伊東さんの方が好きですし」
 
きっとにこやかバージョンの伊東でも、さっきの楓の話には優しい言葉をくれただろう。でも全然違って聞こえたはずだ。そもそもにこやかバージョンの彼には、自身が抱える繊細な部分を見せたくないと思ったはず。
 
一方で伊東は、瞬きをして、不思議そうにこちらを見る。なにか言いかけて口を開くが、なにも言わなかった。
 
どうしてそんな目で見るのだろう?と思った時、オムライスが運ばれてきた。