スマホから片目を出してふたりを見る……が、フロアの向こうから颯爽と歩いてくる背の高い男性に気がついてドキッとして目を伏せた。
事務系の部署が集約されているこのフロアは、カジュアルな服装の社員が多い。その中で、隙のないスーツをビシッと身につけてコツコツと靴音を響かせて歩いてくる男性に、皆の視線が吸い寄せられる。
彼、伊東倫(いとうりん)は、ウエムラ商会一のイケメンと名高い営業部の社員だ。
年齢は太田たちよりひとつ下、楓より三つ上の二十八歳。
社歴が長く社員の年齢層の幅広いウエムラ商会では、まだまだ若手の部類だが、営業成績は文句なしのトップだった。
普段は二階にいる彼が一階に来ることはあまりない。なにか用があるようでこちらに向かって歩いてくる。
「よ、王子じゃん。なんでこんなとこにいるの、珍しい」
真っ先に声をかけたのは太田だ。
〝営業部の王子さま〟というのが伊東の陰のあだ名だが、本人に向かって使うのは彼だけだ。
「お疲れさまです、太田さん」
伊東が足を止めて答えた。
「経理課に用があって」
「ははーん、王子も経費精算のクレームだな? 合コン代落としてくれって言いに来たんだろ」
「ちょっと太田、伊東くんに失礼じゃん。あんたじゃないんだから」
山口が口を挟み、伊東が困ったように微笑んだ。
「請求書の依頼ですよ。少し込み入った案件なのでチャットじゃなくて直接、と思いまして」
「ほらー。伊東くん、うっとおしい先輩で最悪だね。課が違うからましだけど、企画と営業はフロアが一緒だからうざいでしょ」
「いえ、そんなことは。太田さんの明るくて飾らない人柄は、クライアントの皆さんに好評です。いつも助けられています」
伊東が、非の打ち所がない答えを口にした。
彼は見た目と能力が素晴らしいだけでなくそれを鼻にかけない謙虚で好感度の高い人柄として知られている。
イケメンで能力があればおじさん社員の妬みの対象になってもおかしくないが、そんな噂は微塵もなく老若男女問わずどの層の社員からも評判がよかった。
「請求書なら、私がもらいましょうか?」
「いえ、継続してお願いしている件なので……」
そう言って彼は経理課全体に視線を彷徨わせる。
げ、まずい。
事務系の部署が集約されているこのフロアは、カジュアルな服装の社員が多い。その中で、隙のないスーツをビシッと身につけてコツコツと靴音を響かせて歩いてくる男性に、皆の視線が吸い寄せられる。
彼、伊東倫(いとうりん)は、ウエムラ商会一のイケメンと名高い営業部の社員だ。
年齢は太田たちよりひとつ下、楓より三つ上の二十八歳。
社歴が長く社員の年齢層の幅広いウエムラ商会では、まだまだ若手の部類だが、営業成績は文句なしのトップだった。
普段は二階にいる彼が一階に来ることはあまりない。なにか用があるようでこちらに向かって歩いてくる。
「よ、王子じゃん。なんでこんなとこにいるの、珍しい」
真っ先に声をかけたのは太田だ。
〝営業部の王子さま〟というのが伊東の陰のあだ名だが、本人に向かって使うのは彼だけだ。
「お疲れさまです、太田さん」
伊東が足を止めて答えた。
「経理課に用があって」
「ははーん、王子も経費精算のクレームだな? 合コン代落としてくれって言いに来たんだろ」
「ちょっと太田、伊東くんに失礼じゃん。あんたじゃないんだから」
山口が口を挟み、伊東が困ったように微笑んだ。
「請求書の依頼ですよ。少し込み入った案件なのでチャットじゃなくて直接、と思いまして」
「ほらー。伊東くん、うっとおしい先輩で最悪だね。課が違うからましだけど、企画と営業はフロアが一緒だからうざいでしょ」
「いえ、そんなことは。太田さんの明るくて飾らない人柄は、クライアントの皆さんに好評です。いつも助けられています」
伊東が、非の打ち所がない答えを口にした。
彼は見た目と能力が素晴らしいだけでなくそれを鼻にかけない謙虚で好感度の高い人柄として知られている。
イケメンで能力があればおじさん社員の妬みの対象になってもおかしくないが、そんな噂は微塵もなく老若男女問わずどの層の社員からも評判がよかった。
「請求書なら、私がもらいましょうか?」
「いえ、継続してお願いしている件なので……」
そう言って彼は経理課全体に視線を彷徨わせる。
げ、まずい。



