とはいえ、べつにそれを寂しいとは思わない。
妄想の世界はいつだって楓に優しかったからだ。
妄想の世界では、お姫さまにも勇者にも魔法使いだってなれる。
お話を盛り上げるスパイスとして事件事故、胸が痛む展開も、すべては予定されたイベントで、不用意に傷つけられることもない、安全かつ幸せな世界なのだ。
会社は、妄想の種の玉手箱だ。
ウエムラ商会には老若男女さまざまな社員が在籍していて、皆それぞれに個性的。楓にとって昼休みはそれらを存分に観察できるボーナスタイムみたいなものなのだ。
でもそれには、自分の存在を消していることが必須条件。
あの子もしかしてこっち見てる?と警戒されては自然な姿を観察できなくなるし、嫌がられ、悪口を言われたりして不用意に傷つけられたりする。
だから今も、山口と太田のやり取りをこっそり楽しんでいたのがバレないように、まったく興味がないふりでスマホを手に取った。
すると画面に、浮かび上がるポップアップ。
『あなたの記事に〝いいね!〟がつきました!』
嬉しい通知にこっそり笑って、さっそく画面をタップする。
立ち上がったのはSNS『コトマド』のアプリだ。
コトマドは、ユーザーが自分の言葉を自由にアップできる交流サイトで、日記やポエム、日常のちょっとした呟きなど、アップされる言葉のジャンルは多種多様。
楓はときどきここに自分で書いた妄想小説をアップしている。
同じように小説をアップしてる人もまぁまぁいて、感想を送り合っている。お互いに顔も本名も知らないが、楓にとっては、このくらいがちょうどいい。
通知は楓がアップした短編小説に、交流のあるユーザー『もふもふマリン』が、記事が気に入ったという意味の〝いいね!〟ボタンを押したという知らせだった。
SNSに妄想を垂れ流すのはあくまでも自分のため。
誰かのためではないけれど、楽しんでもらえるのは嬉しかった。
ビジュアルと性格のギャップが素敵な山口を、楓はよく小説のモデルにしていて、今いいね!がついた作品もそうだった。
山口と太田の関心が自分から離れたのをいいことに、楓は再び観察をはじめようと試みる。
妄想の世界はいつだって楓に優しかったからだ。
妄想の世界では、お姫さまにも勇者にも魔法使いだってなれる。
お話を盛り上げるスパイスとして事件事故、胸が痛む展開も、すべては予定されたイベントで、不用意に傷つけられることもない、安全かつ幸せな世界なのだ。
会社は、妄想の種の玉手箱だ。
ウエムラ商会には老若男女さまざまな社員が在籍していて、皆それぞれに個性的。楓にとって昼休みはそれらを存分に観察できるボーナスタイムみたいなものなのだ。
でもそれには、自分の存在を消していることが必須条件。
あの子もしかしてこっち見てる?と警戒されては自然な姿を観察できなくなるし、嫌がられ、悪口を言われたりして不用意に傷つけられたりする。
だから今も、山口と太田のやり取りをこっそり楽しんでいたのがバレないように、まったく興味がないふりでスマホを手に取った。
すると画面に、浮かび上がるポップアップ。
『あなたの記事に〝いいね!〟がつきました!』
嬉しい通知にこっそり笑って、さっそく画面をタップする。
立ち上がったのはSNS『コトマド』のアプリだ。
コトマドは、ユーザーが自分の言葉を自由にアップできる交流サイトで、日記やポエム、日常のちょっとした呟きなど、アップされる言葉のジャンルは多種多様。
楓はときどきここに自分で書いた妄想小説をアップしている。
同じように小説をアップしてる人もまぁまぁいて、感想を送り合っている。お互いに顔も本名も知らないが、楓にとっては、このくらいがちょうどいい。
通知は楓がアップした短編小説に、交流のあるユーザー『もふもふマリン』が、記事が気に入ったという意味の〝いいね!〟ボタンを押したという知らせだった。
SNSに妄想を垂れ流すのはあくまでも自分のため。
誰かのためではないけれど、楽しんでもらえるのは嬉しかった。
ビジュアルと性格のギャップが素敵な山口を、楓はよく小説のモデルにしていて、今いいね!がついた作品もそうだった。
山口と太田の関心が自分から離れたのをいいことに、楓は再び観察をはじめようと試みる。



