フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜

一日中外回りをしていて疲れてる上に、自分の分のデスクワークもある。無視したいのが本音だが、うなずいた。

「僕でよければ」
 
差し出された資料を一読し、適切な指摘をくれてやると、彼は嬉しそうに目を輝かせた。

「ありがとうございます! さすがは伊東さん。いただいたアドバイスめちゃくちゃ為になります!」

「そう? そう言ってもらえるなら嬉しいけど」

「僕も早く伊東さんみたいになりたいです」
 
そう言って彼は自分のデスクに戻っていった。
 
やれやれと思っていると。

「伊東」
 
再び声をかけられる。
 
おいおい帰社して十分の間に何人に声をかけられるんだ?
 
人気者はつれーなと思いながら振り返ると、営業部の先輩安(あん)西(ざい)安西だった。

「お疲れさまです、安西さん」

「お前、今月も成績一位だってな。どんだけ連勝記録伸ばすん? いい加減殿堂入りしたら? ほかのメンバーのためにもさ」
 
フロアの社員たちが仕事をするふりをしながら心配そうチラチラとこちらを見ている。
 
安西は、倫が新人だったころの指導係だ。営業成績はパッとしないが、プライドが高く先輩風を吹かせるので後輩からはあまり好かれていない。というか嫌われている。
 
倫が彼の成績をあっという間に抜いたことをよく思っていないのが見え見えで、ときどきこうやって嫌味と冗談のギリギリを狙って絡んでくる。
 
うっとおしいのひと言だ。

「社長賞まで獲るんだからすごいよね〜」
 
少し前に倫が社内で表彰されたことを言ってるのだ。
 
倫は机の上に置いてある社内報に目をやった。にっこり笑って、それを彼に差し出した。

「とんでもない。このインタビューでも答えましたが、今の僕があるのは新人時代に仕事を教えてくださった安西さんのお力ですから」
 
安西が、え?という表情になって社内報を受け取りめくる。
 
中には倫の写真とインタビュー記事。

《すべての結果は僕だけの力ではなく、入社してから今まで僕を導いてくださった諸先輩方のお力です。とりわけ指導係だった安西さんには……》