フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜

ういうことを言うから、ふたりを並べてウエムラ商会の二大イケメンなどと言われている。
 
伊東派、太田派などという派閥までできているらしいから、迷惑なことこの上ない。
 
太田は、この会社で倫が苦手とする数少ない人物だ。
 
脳に口がついてんのか?と思うくらい、思っていることをそのまま口にする。しかも普通なら眉をひそめられかねない言動も太田なら許させるという風潮さえあるのだ。忌々しい。
 
愛されキャラというやつか?
 
俺は全然愛してないが。
 
容姿も人柄も会社員としての評価も、なにひとつ負けていないはずなのに、どうしてか鼻につくのだ。
 
とはいえ、そんな内心は、おくびにも出さない。

「たまたま僕があの場にいたから先に誘われただけで、太田さんがいたら、太田さんが誘われたと思いますよ」

「どうだろうね? やっぱり社内ではイケメンナンバーワンは伊東くんで僕はナンバーツーだからさ」

「まさかそんな」と再び謙遜しながら、だるいなこのやり取りと思ったところで、二階についた。

「ま、でもあの子なら、僕の方がいいって言ってくれるかも」

「あの子?」

「ほら、経理部のメガネちゃん。いつも大っきいおにぎりを食べてて子リスみたいだよね」

「……藤嶋さんのことですか?」

「そうそう、俺が経理課に行くといっつも熱烈歓迎な視線で見てくるんだよね。だからあの子は俺派かも」
 
守備範囲広すぎだろ。
 
地味メガネが誰派かなどまったく興味がないので話を終わらせることにする。

「あ、そういえば太田さん、例の件の案できました? 締切は今日ですが」
 
これ以上くだらない話題を振られないように別件を持ち出すと「ああ、あれね……あとでチャットする……」と、途端 に歯切れが悪くなり、そそくさと企画部の方へ戻っていたった。
 
その背中に、無駄話ばっかしてんじゃねえよ仕事しろ、と罵ってから自分も営業部に戻る。
 
すると後輩から声がかかった。

「伊東さん、すみません、ちょっといいですか? 『コヒナタ印刷』さんの件でアドバイスいただきたい箇所があって……」