「あんた、いい歳して合コンばっか、恥ずかしくないの?」
 
山口の言葉に、妄想の世界はパチンとはじけて、楓は現実に戻ってくる。
 
またくだらぬ妄想をしてしまった。
 
山口が知ったら、きっと白目を剥いて怒るだろう。
 
先輩、ごめんなさい、と心の中で謝って、楓はおにぎりをもぐもぐする。

「はぁ、ぐっちゃんってどうしてそんなに、合コンを敵視するかな。合コンは人間を成長させるのに」

「うざ。てか合コンって認めてるし」
 
軽快なやり取りにおにぎりのラップを丸めながら、楓はふふふと笑みを漏らす。
 
と、そんな楓に気がついた、太田と山口が会話をやめてこちらを見る。
 
あ、まずい。
 
慌ててコホンコホンと咳払い。素知らぬふりでペットボトルのお茶を飲んだ。
 
妄想がはじまると、周りが見えなくなるのは、ちょっとやっかいな楓のくせだった。
 
休み時間なのだし、妄想の内容までは知られないのだから、べつにいいといえばいいのだが、あの子気持ち悪いね?と思われてしまうのはいただけない。
 
昔から楓は妄想するのが好きだった。
 
いや好きというのとは微妙に違う。妄想は楓にとって食べる寝ると同じ生存活動のようなものだった。
 
小さな頃から、鳥を見れば背中に乗って空を飛べたし、雨上がりの水溜りの向こうにはパラレルワールドが広がっていた。
 
それはとても楽しいが、おかげで現実では苦労した。たびたび妄想の世界に入ってしまい、現実世界のあれこれがついつい疎かになるからだ。
 
夢見がちな女の子は、ごく小さな頃は許されても、学校へ行き出すと異質なものになってしまう。
 
流行りや会話にうまくついていけず、いつもひとりぼっちだった。
 
成長するにつれて、〝普通の人〟のふりを少しはできるようになり、どうにか今はこうやって社会に溶け込んでいる。けれど、人と関わるのは相変わらず苦手だった。
 
うっかり素の自分を見せてしまい『楓ちゃんって変わってるよね』と嫌がられてしまうのが怖いからだ。
 
だから楓は常に、現実世界とは一定の距離をとって生きていた。