フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜

「ドSっていうか性悪! 腹黒! 漫画じゃなくて現実!」
 
ムキになって楓は言うが、早苗の意見は変わらずだった。

《いやいや、イケメンが自分にだけ毒吐くんでしょ、ぞくぞくしちゃう。それ絶対恋のはじまりでしょ》

『恋のはじまり』などという身の毛もよだつ恐ろしい言葉に、楓は別の意味でぞくぞくした。

「あり得ないから! 変なこと言わないで。あいつのせいでお姉ちゃんどん底なんだから」

《まぁそれはそうかもしれないけど。だけど今日アカウントを知ってるぞって言われただけで、もともとその人お姉ちゃんのアカウント知ってたんでしょ?》

「それは……そう」

《だったらそんなに状況が変わったわけじゃないし。変な人だ、小説のネタにしよ、くらいに思っておけば? お姉ちゃんいつもそうじゃない?》

「まぁ、基本はそれだけどさ」
 
学生時代は、『楓ちゃん変わってるね』と言われて避けられたり、あとで陰口を言われたりすることはときどきあった。
 
悲しいけれど相手に対してムカつくとか許せないという気持ちにはならなかった。
 
自分がズレたことをしたのだろうという自覚があったから。
 
仕方がないな、なんなら申し訳ないと思う時もあったくらいだ。
 
でもそれらと伊東はまったく違う。彼は楓の一番大切なところを攻撃したのだから。
 
そんなことをもんもんと考えていると。

《ま、元気出して》と、早苗が雑に話を終わらせた。

《じゃあ来月よろしくね。その時、ドS王子との進展をおしえてね。お母さんにも言っとく》

「な……! なにも進展しないから!」
 
スマホに向かって怒鳴ると、通話は切れた。

「もー、早苗じゃないんだから」
 
頬を膨らませて画面を睨む。
 
いつも彼氏がいる恋多き女の彼女なら、こんな最悪なきっかけでも恋に発展させそうだ。でも楓は、絶対にないと言い切れる。
 
通話画面を閉じると再びコトマドの画面が開く。
 
今この瞬間にも伊東が自分のアカウントを見てるかもしれないと思うと苦々しい気持ちでいっぱいだ。
 
お互いに干渉しないで、と伊東は言ったが、どうもこっちの方が分が悪いような気がした。
 
いっそのことあんな約束は反故にして彼の本性をバラし、ギャフンと言わせてやりたいが、相手は悪魔なのだから、返り討ちに遭うかもしれない。やめておく方が無難だろう。
 
と、そこでさっき早苗に言われたことが頭に浮かんだ。

『小説のネタにしよ』
 
そうだ、現実では無理だとしても私には小説がある!
 
途端に頭の中にもわんもわんと妄想の世界が広がっていく。
 
脚本は、楓。
 
そして主人公は、にっくき悪魔、伊東倫!