宵にかくして




「え、会長がなんでここにいるのっ?」

「今日も美しい〜こんなに近くでお目にかかれたの初めて……っ」


惚けたような表情でぽやんと頰を染めるクラスの女の子たちに呆気に取られていると、ひとつのワードが引っかかる。



「、カイチョウ……?」

「うん、おれの事だね」  

「そうなんですね……、え、おれのこと?」

 

すべてにオウム返しをしてしまう私がおかしいのか、涼しげに目を細める案内人さんは、さらりとなんでもない事のように告げた。


 
「────会長の秋月桃李(あきづき とうり)です、改めてよろしくね」
 


きらりと眩しい笑顔と共に投下されたセリフを頭の中で繰り返して、ひとつ理解する。


……ああ、またやってしまった……。


絶望から呆然とする私に、じゃあおれはこの辺りで、と背を向けようとした彼が、何かを思い出したようにぴたりと動きを止めた。


「っ、……!」


無意識に握りしめていた手のひらが丁寧にほどかれた。薄く色づく花びらに指先だけで触れたかと思えば、形のいいくちびるがゆっくりと距離を詰めてくる。



「……蒼唯さんに、いい事がありますように」


耳元でささやくように告げられて、思わず背筋が凍る。どこか含みのある笑みも、からかうような声音も、おそらく全て確信犯。



湧き上がる歓声には興味がないと言わんばかりに背を向けた彼は、……"爆弾"だけを残してその場から消えてしまった。