宵にかくして




「"サナ"なんて、どうでしょうか?」

「、サナ?」

「私、漢字で『咲菜』って書くんですけど……昔から初対面の方によく『サナ』って読み間違えられることが多くて。……響きも中性的ですし、それなら呼び慣れてるので反応できるかな、と」

 
クラスが変わる度に担任の先生や同級生にも、あおいさな、と呼び間違えられていたから、もうすっかり馴染んでしまったその名前。えまです、と、訂正するタイミングを失って、ずっと"サナ"と呼ばれていた時期もあったくらいだ。


我ながら名案、と目を輝かせる私に宵宮さんも頷いてくれるので、安心から笑みがこぼれる。宵宮さんも協力してくれるし、身振り手張りを男の子っぽく意識して、声の高さも気をつければ、完璧な男装になるはず……!
 
 

「い、行きましょう……!」

「ふ、……うん。"サナ"」



微かに綻んだ表情と、試すように呼ばれた名前。
甘やかな低音で名前を紡がれる度に、……ゆるんでしまう口角には気づかないふりをして、ふたりで部屋を出たのだった。