宵にかくして







緑に囲まれた丘にそびえ立つ巨大なレンガ調の建物と、それを取り囲むようなたくさんの校舎。広大な敷地を所有しているとは聞いていたけど、想像していたよりもずっと規格外な広さだ。


門の前に立ち校舎を見上げていると、ふわり、桜の花びらがたくさん舞っていることに気づいて、思わず頬がゆるむ。


桜、綺麗だなあ……。



そうして、ふと思い出したこと。
そういえば、桜の花びらを手元に収めることができたら、その日はいいことがあるってお母さんに聞いたような……!


「(……今日は編入初日だし、そういう迷信にあやかるのもいいかもしれない)」



時計を確認してみると、まだ時間まで余裕もある。周りに人がいないことを確認すると、舞う花びらを手のひらにひょいっと乗せる……ことを試みたけど、こぼれ落ちてしまう。




意外と難しい……と肩を落としながら、次こそは、と狙いを定めた花びらに向かって手を伸ばし、地面を軽く蹴る。