「凪(なぎ)も茅(かや)もびっくりするだろうな〜……ドッキリビデオとか撮影しちゃう?」
「う、なぎ兄もかや兄も気づいてくれるかな……そもそも、私、まだ秋霜に行くって言えてなくて、」
"凪と茅"────……ひとつ年上の双子の兄であるふたりも、今日から私が転入する秋霜学園に通っている。
百年以上の歴史を誇る秋霜学園は、品行方正、文武両道を理念に掲げる中高一貫の名門校。全国トップクラスの学力、それに加えて部活動にも力を入れていて、全国大会は毎年常連なんだとか。
生徒の自主性を重んじる自由な学風がとても人気で、毎年の入試の倍率はえげつなく高い……と聞いていたので、ぎりぎり編入試験に合格できてよかった。
「かわいい妹のことだもん、すぐ気づくに決まってるでしょ?」
「……どこからどう見てもかわいい要素はゼロだよ?」
「咲菜は世界でいちばんかわいいよ〜!」
そのままぎゅっと抱きしめてくれるお母さんは、いつもやさしい香りがする。それに包まれていると、さっきまで緊張していた気持ちがほどかれるみたいに和らいで、思わず笑みがこぼれた。
「咲菜らしく、楽しい学校生活が送れますように」
「……うん。私、がんばる……!」
────ひっそりと静かに目立たず、人並に楽しい学園生活が送れますように。
それだけが、私の唯一の願い事なのだから。



