「あんたと喋ってると疲れる……あっち行け」
しっし、と手で振り払われてひそかにショックを受ける。お兄ちゃんいる同士、分かり合えると思ったのになあ……。
しょんぼりと肩を落としながらも、秋月くんと会長さんの話をしていたせいか、ずっと会えていなかった"ふたり"のことを考えてしまう。
かや兄は、ちょっと無口でぶっきらぼうだけど、ほんとうは誰よりも思いやりのあるひとだ。周りもよく見ていて、私が困っているときは必ずそばに居てくれるやさしい兄。
なぎ兄は、静かな環境を好むかや兄とは違って、いつも人に囲まれていた。にこにことした愛想のいい笑みとやわらかな言葉遣い、はにかんだ時にちらりと見える八重歯がかわいくて、なぎ兄が笑っているとこちらまで元気をもらえるような、太陽みたいな兄。
かや兄となぎ兄、……だいすきな、ふたりの兄。
……でも、こんな勝手な編入、呆れられるだろうなあ。
お母さんにははやく伝えてあげなさいと言われているけど、編入した今でさえふたりには何も伝えられてない。学校に編入することも、……寮生になることも。
「(ちゃんとふたりと話す機会があるまで、このことは秘密にしよう……!)」
そんな意気込みが数時間後、あっさりと崩されることになろうとは、─────この時の私は何も知らない。



