【マンガシナリオです】クールな彼の無自覚な求愛

12月
○カラオケボックス、夜
高校時代の同級生とカラオケを楽しむ紗矢と玲香。隣同士で座る。他の人が歌っている。
玲香「まさか先輩が振られるとはねぇ」
紗矢(他の人からすれば、なんて勿体無いことをしたんだと非難されるかも。だけど…)
玲香「そんだけ神崎が好きなんだね」
紗矢「うん…。脈なしだけどね」
玲香「なんで決めつけてるの?告白して振られたわけでも、神崎が他の人を好きって決まったわけでもないのに。恋愛に興味ない人間だって、いつかは恋をするし、脈なしでも紗矢に頑張ってアピールした先輩の気持ちをないものにしたらだめだよ」
ハッとする紗矢。
紗矢(先輩の気持ち…。そうだよね。何も行動してないのに勝手に諦めるのは違う。…多分、まだ怖がってるんだ、振られることを。また傷付く恋で終わってしまうんじゃないかって)


週明け。
○大学、自習パソコンルーム
パソコン作業をする紗矢。
隣に渉が座ってくる。画面に集中していて気づいていない紗矢。
渉(気づいてない…)
じーっと見た後、人差し指で紗矢の頬をツンツンする。
紗矢(!?)横を見る。
「わぁっ…」
紗矢の唇に人差し指を当てる。
渉「しーっ」
ドキッとする。
紗矢「びっくりしたー。いつから居たの?」小声
渉「さっき来たとこ」
紗矢「全然気付かなかった」
渉「まだ帰らない?」
紗矢「うん、もう少しいるかな」
渉「俺も少し作業するんだけど、終わったら一緒に帰れそう?」
紗矢「うん、大丈夫だよ」
渉「おっけ」
パソコン作業を始める渉。
並んでパソコンを使う2人。
カタカタカタ…素早くキーボードを打つ渉。
紗矢(タイピング早い。指先さえもかっこよく見える…。もし同じ学科だったら、こんな風に並んで勉強したのかも。真面目に授業受けるタイプなのかな?案外ぼーっとしてたり?まだまだ知らないことばっかりだなぁ)


次の週、金曜日。
○母の居酒屋、夜
紗矢(今日はバレーサークルの忘年会。明日から始まる冬休みに県外の地元に帰るメンバーがいるため、毎年早めに行われる)
ドアが開きメンバーたちが入ってくる。
メンバー「あったけー。こんばんはー!」
メンバー「よろしくお願いします。あ、紗矢ちゃんだ。なんか会うの久々だなぁ!」
紗矢「いらっしゃいませ。お久しぶりです」
藤野の姿が見えた。
紗矢(会うのあの日振りだ…大丈夫かな)
ぱち、目が合う。
藤野「いっちー、今日もよろしくな!」笑顔
紗矢(いつもの先輩だ。…良かった)
「はい!楽しんで帰ってください」
最後に渉と成田が入って来た。マフラーに顔うずめる渉。
紗矢(あ、マフラーしてる。ふふ、寒そう。なんかかわいいな)

盛り上がるメンバー達。
3年「結局今年もぼっちクリスマスかぁ」
2年「俺もっすよー!なんでバイトいれましたよ」
空になったグラスや皿をトレーに乗せる紗矢。
3年「紗矢ちゃん!クリスマス暇?俺を癒してよぉー」酔ってる。
3年「おい、抜け駆けすんな!一ノ瀬ちゃんは俺の方がいいよな!?」
紗矢「あはは…」困り笑顔。
藤野「お前ら酔いすぎ。いっちーごめんな」
紗矢「いえ、大丈夫です」
端の席で黙々と食べる渉。隣には成田。
成田「一ノ瀬ちゃんって、結構モテるタイプだよねー。すぐ彼氏出来そうだけど、ダメ男たちのせいで恋愛に慎重になってんのかな」渉に話しかけている。

お開き。店の外。
藤野「じゃあ、気をつけて帰れよー」
1年「お疲れ様です!失礼します」
藤野は再び店の中に入る。片付けている紗矢の姿。
藤野「いっちー、送るけど」
紗矢「まだかかりそうなんで大丈夫ですよ。気にかけてくれてありがとうございます」
藤野「そっか。今日はありがとな!お疲れ」
店を出て帰って行く。

テーブルを片付け終え、下に置かれているスマホに気付く。
紗矢(!これって…神崎のだ!)
紗矢の母「お母さん明日の仕込みして帰るから、紗矢は先に帰ってね。夜道気をつけるのよ」
紗矢「うん、分かった」

帰り支度を済ませ渉のスマホを手に店を出た。
紗矢(家に届ければいいよね)
「あ…」
ちょうど前から渉が歩いてきてる。
渉「スマホ忘れた」
紗矢「あ、ちょうど届けようと思ってたの」

並んで帰る2人。
紗矢「ほんとサークルのみんな仲良しだよね」
渉「藤野先輩のおかげだよ。みんなが楽しめるように、練習も飲み会も気にかけてくれるから」
紗矢「さすがだね」
渉「うん」
風が吹く。
紗矢「う、寒っ」
ふわっ、自分のマフラーを紗矢の首にかける。
紗矢「え…」
渉「風邪ひかないようにね」
紗矢「…ありがとう」
(あったかい…)

家の最寄り駅に着いた2人。
渉「家まで送るよ」
紗矢「ありがとう」
歩き出す。
紗矢(明日から少しの間会えない。神崎はクリスマスや年末年始、誰と過ごすんだろう。…なんてそんなことを考える前に、私にはやるべきことがある…)
「…ねぇ、ちょっとだけ時間ある?」

○公園
ベンチに座る2人。
渉「寒くない?」
紗矢「大丈夫だよ」
渉「ちょっと待ってて」
すぐ近くの自販機で飲み物を買う渉。
渉「はい」
温かい缶の飲み物を差し出す。
紗矢「ありがとう」
(神崎の優しさに触れるたび、まだ好きでいたいと思う。…伝えなきゃ何も始まらない、たとえ傷つくとしても…)
身体を正面から渉の方へ向ける。
紗矢「神崎…」
ぐっ、と手に力が入る。
紗矢「私…神崎が好き。神崎が誰かと付き合う気ないの知ってるけど、どうしても伝えたくて…」
(…言っちゃった。もう後には戻れない)
すっ、と立ち上がる渉。
紗矢(!!…もしかして帰るのかな)
紗矢の前にしゃがむ。
紗矢(!?)
顔を上げ、紗矢を真っ直ぐ見る。
渉「…俺は、一ノ瀬を傷つけないよ」
紗矢「え…」
渉「それでも、もし俺のせいで傷ついた時は教えて。一ノ瀬が笑顔になるまで謝るし、辛い過去になんかさせないから」
紗矢(これって…)
渉「…あのさ、伝わってる?…俺も一ノ瀬が好きだよ」アップめ。
涙目になる紗矢。
紗矢「恋愛として好きってこと…?」
渉「うん」
紗矢「ごめん。振られることしか考えてなくて…今ちょっと動揺してる」
渉「うーん…じゃあ、手かして」
両手を優しく握る。
渉「言わせてごめん。俺から言うべきだった」
紗矢(…え)
渉「一ノ瀬の笑顔が好き。優しいとこが好き。素直なとこが好き。一ノ瀬の作る美味しい料理やお菓子が好き。一ノ瀬の…」
どんどん顔が赤くなる紗矢。
紗矢「ちょっと待って!…もう大丈夫。十分伝わったから…ありがとう」
ぎゅ、強く手を握る。
渉「…一ノ瀬、俺と付き合って」
紗矢「…はい」

渉「帰ろっか」
紗矢「うん」
渉「…手繋いでもいい?」
紗矢「え、もちろん!」
ぎゅ、手を繋ぐ。
紗矢(お互いの冷たい手が、ゆっくり熱くなっていく)
2人の後ろ姿。