【第三章】
○事務所のシャワールーム(夜)
想乃「す、すみません。使用中だと思わなくてっ。すぐ出ていくので」
くるりと背を向けて逃げ出そうとする想乃の手首を、理央が掴む。
理央「出てかなくていい」
想乃「……」
理央はタオルで、想乃の頭をわしゃわしゃと拭く。
理央「風邪、引くよ」
想乃は両手を胸の前で握り、大人しく理央に髪を拭いてもらう。
ほんのりと頬を赤らめる想乃(……目のやり場に困る)
○事務所の制作部屋(夜)※前回の作曲で使ったスタジオとは別の部屋です。他の人が使っていて使用できないときは場所を変えていますが、基本的に制作部屋で作業します。
想乃は貸してもらったグレーのスウェット上下を着て、普段は下ろしている髪を頭の高いところで団子にした。
想乃「今日は、コードの続きでいいですか?」
理央「よろしくお願いします、ソノ子先生」
想乃「頑張りましょう!」
テーブルに二人で並んで座り、あれこれ話しながら作業を進めていく。
二時間後。
理央「できた」
想乃「コードはかなり形になってきましたね。メロディもサビが完成しているので、それに合わせて他も作っていく感じにしましょう」
理央「その後の流れは?」
想乃「んーそうですね。コードとメロディができたらドラムとかリズムを打ち込んで、ベースに、ギターとかピアノの伴奏を重ねてく感じでしょうか。この作業は、私に全部任せていただいても大丈夫ですし、もし挑戦されたいようでしたらお手伝いします」
理央「じゃあ、できるとこまで俺にやらせてもらっても?」
想乃「もちろん!」
理央「前奏部分にさ、ピアノ入れたいなって思ってて」
想乃「あ〜いいですね!」
理央「イメージだけ作ってきたんだけど」
理央は片手でスマホを操作し、親指でタップ。
前奏「♪〜」
想乃「いい感じだと思います!」
想乃(やっぱりセンスいいな〜。このメロディなら……)
想乃「このイメージをもとにさっそくアレンジを加えてみても?」
理央「そんなすぐにできるの?」
想乃は、キーボードの電源を付けて、音が出るか確かめる。そして、ぽろぽろと前奏を両手で弾いた。即興で奏でられる旋律に、理央は瞳の奥を揺らす。
弾き終わったあと鍵盤から手を離し、理央の顔を見上げる想乃。
想乃「こんな感じです」
理央「すげー。めちゃくちゃ良かったよ。即興でこんなに弾けるもんなんだ」
想乃「ずっと習ってたので」
理央「へぇ」
理央はキーボードの奥側に椅子を置いて腰掛け、頬杖をつく。
理央「なんか弾いてみてよ」
想乃「いい……ですけど」
理央の視線を感じ、想乃は戸惑う。
想乃(じっと見られてると緊張する)
想乃「じゃあ、一曲……」
キーボード「♪〜」
想乃モノローグ[ドビュッシー アラベスク第一番]
想乃モノローグ[ふんわりした優しい旋律が特徴の、ドビュッシーの代表的な一曲]
想乃(高校生のときにコンクールで弾いて、途中でミスして演奏を止めてしまった苦い記憶がある)
弾き終わったあと、理央がぱちぱちと拍手する。
理央「よかったよ」
想乃「ありがとう、ございます」
理央「心地よくて、眠くなる曲だね。想乃っぽい」
想乃「私っぽい……ですか?」
理央「うん、なんか安心して眠くなる感じ」
想乃(どんな感じ?)
理央「ずっと音楽やってたってこの前言ってたけど、ピアノ?」
想乃「ああ……はい」
想乃「私実はずっと、音大目指してたんです。でも、色んなコンクールに出ても結果が出なくて、他の人たちとの才能の差に打ちのめされて、ピアノの道は諦めました」
想乃(なんでこんなこと、三好さんに話してるんだろう)
理央「でも今は音楽で活躍してるじゃん。これからもこの仕事やってくんでしょ?」
想乃は首を横に振る。
想乃「ただ、趣味でSNSで曲出してるだけなので」
想乃(普通に就職した方が安定してるし)
想乃(音楽で食べていける人なんて、ほんの一握り。私がそこに入れるとは限らない)
想乃「そのうち仕事なくなって活動もやめるかもですし。それに」
想乃「……私は、好きなことで生きてく覚悟がないから」
深刻そうな表情を浮かべる想乃。理央はキーボードに両腕を乗せて、前のめりになりながら顔を覗き込む。
理央「それってさ、普通の生き方も好きなこともどっちも諦めなかったってことでしょ。すげーじゃん」
想乃「…………!」
理央「好きなことして生きてくって確かにかっこいいけどさ、夢を諦めて、王道ルートで社会人してくれてる人たちのおかげで俺みたいなのが好きな仕事させてもらえてるし」
理央「どんな道選んだって、みんな頑張ってて偉い」
理央「迷いながら、それでも曲書いてるんでしょ。想乃はすごいし、尊敬するよ」
想乃(三好さんは)
想乃(見た目だけじゃなくて、中身もきらきらしててアイドルの鑑みたい)
想乃「三好さんはすごいですね。アイドルとしてどんどん人気が出ていってて」
理央「でも安定はしてないよ。不祥事で炎上したらあっという間に干される世界だから、一年後もステージに立ってる保証はない」
理央「俺もすげー悩んでた時期あったよ。こういう仕事ってさ、なんかフツーのレールから脱した感あるでしょ」
理央「でもやっぱ、好きなんだよね。音楽」
想乃(不安になるのは、私だけじゃないんだ)
想乃モノローグ[三好さんの、人間的な一面を見た気がする]
想乃モノローグ[きらきらしてるように見えてもその裏では大変なことがたくさんある。業界にほんの少し足を踏み入れただけの私にも、分かる]
アンチコメントが脳内に浮かぶ。
アンチコメント『この曲パクりw自分で考えろよw』
アンチコメント『こいつの歌ほんと不快だわ』
アンチコメント『早く消えろ』
想乃「それでも、挑戦してきたことがすごいです。アイドルの仕事に全部、捧げてきたってことですもんね」
まっすぐな表情の理央「うん、差し出せるもんは――全部」
想乃(全部って、言い切れるのすごい)
想乃モノローグ[きっと人気アイドルになるまで、見えない苦労をしてきたんだと思う]
想乃「ありがとうございます。こんなこと、誰にも相談したことなかったので」
理央は想乃の髪をくしゃっと撫でる。
理央「お互い頑張ろーな」
想乃は頬を赤く染める。
想乃「……はい」
○大学の講堂(昼)
うとうとしながら講義を受ける想乃の隣で、瑠莉香が呆れた表情を浮かべる。
想乃(昨日も編曲作業夜中までやってたから)
想乃(眠い……)
こくん、こくん、と首を縦に動かす。
先生「そこの君、この問題の答えを言ってください」
瑠莉香が想乃の肩を揺する。
呆れ交じりの瑠莉香「想乃〜当てられてるよ、起きて」
想乃「ん……え、はい!」
立ち上がった想乃は、「ええと……」と動揺する。
瑠莉香「問13」
想乃(近代精神のはじまり……? し、自然主義? 何それ、全く分からん)
ちんぷんかんぷん。
すると、反対隣の席から理央が、口元に手を添えてそっと囁く。
理央「19世紀後半、フランスのエミール・ゾラが提唱」
想乃「……! じゅ、19世紀の後半に、フランスのエミール・ゾラが提唱……しました」
先生「正解、座ってください。それから、授業中に居眠りしないように」
講堂内にくすくすと笑い声が響く。
顔を赤くした想乃「す、すみません……」
着席して理央の方を見ると、彼はマスクを下にずらして目配せする。
想乃(三好さん……!?)
一方、理央を目の前にした瑠莉香は、瞳にハートを浮かべてメロメロになっていたのだった。
○大学の廊下(昼)
授業後、想乃は理央に話しかけにいく。理央は四人の男子学生と一緒にいた。
想乃「あの……!」
理央「ん?」
想乃「さっきは、ありがとうございました」
理央「いーよいーよ。てか、ちゃんと答えたのに居眠りバラされたのどんまい」
顔をしかめる想乃「うっ……」
想乃(傷えぐらないで~)
すると、男子グループのひとりが想乃の顔を覗き込む。
男子生徒1「何この子、理央の知り合い?」
男子生徒2「かわいい。彼氏いんの?」
想乃「え、私は……」
想乃が戸惑っていると、理央が庇うように前に立つ。
理央「そー知り合い。いい子だからお前らは手出すなよ」
男子生徒2「はは、何それ俺ら全然信用されてねー」
理央「ちょっと話してくから先行ってて」
男子生徒1「おー」
残された想乃と理央
理央「びっくりさせてごめん、あいつら悪い奴らじゃないから」
想乃「いえ、大丈夫です。三好さんもこの講義受けてたんですね」
理央「うん。もうかなり欠席してるからテストやばいけど」
想乃「もしよかったら、ですけど」
想乃「三好さんが休んだときの板書、送りましょうか?」
理央「いや、さすがにそれは悪い」
想乃「遠慮しないでください。誰かに送るってなった方が、集中できそうですし」
理央「でもどうやって送るの?」
想乃(あ……そっか)
想乃(いつもマネージャーさんを通して連絡してたから、三好さんの連絡先、知らないんだ)
想乃(なんかこれ、連絡先聞くための口実みたいになってるんじゃ)
理央「じゃあ、連絡先交換しよ」
想乃「!」
理央は背を丸めて、想乃の耳元で囁きかける。
理央「でも大学(ルビ:ここ)じゃ目立つから、次に事務所来たときで。あと、ちゃんと寝ろよ」
理央は「またね」と言って去っていく。そして、想乃の手には蒸気であっためるアイマスクの袋が。
想乃(さりげない……)
○事務所の前(昼)
ある日、学校帰りに事務所に行くと、事務所の前で理央のマネージャーが行ったり来たりしていた。
想乃「あれ……? 三好さんのマネージャーさん、ですよね?」
マネージャー「ああ、ソノ子さん……! いつもお世話になっています」
想乃「何かお困りですか?」
マネージャー「実は撮影で必要な台本をスタジオに忘れていったみたいで。自分はこれから会議があるんでどうしたものかと……」
マネージャーは額を手で抑えてかなり焦っている様子。
想乃(マネージャーさん、すごい焦ってる)
想乃(台本ないと、困るよね)
引き:想乃「あの……よろしければ私が届けてきましょうか?」
○事務所のシャワールーム(夜)
想乃「す、すみません。使用中だと思わなくてっ。すぐ出ていくので」
くるりと背を向けて逃げ出そうとする想乃の手首を、理央が掴む。
理央「出てかなくていい」
想乃「……」
理央はタオルで、想乃の頭をわしゃわしゃと拭く。
理央「風邪、引くよ」
想乃は両手を胸の前で握り、大人しく理央に髪を拭いてもらう。
ほんのりと頬を赤らめる想乃(……目のやり場に困る)
○事務所の制作部屋(夜)※前回の作曲で使ったスタジオとは別の部屋です。他の人が使っていて使用できないときは場所を変えていますが、基本的に制作部屋で作業します。
想乃は貸してもらったグレーのスウェット上下を着て、普段は下ろしている髪を頭の高いところで団子にした。
想乃「今日は、コードの続きでいいですか?」
理央「よろしくお願いします、ソノ子先生」
想乃「頑張りましょう!」
テーブルに二人で並んで座り、あれこれ話しながら作業を進めていく。
二時間後。
理央「できた」
想乃「コードはかなり形になってきましたね。メロディもサビが完成しているので、それに合わせて他も作っていく感じにしましょう」
理央「その後の流れは?」
想乃「んーそうですね。コードとメロディができたらドラムとかリズムを打ち込んで、ベースに、ギターとかピアノの伴奏を重ねてく感じでしょうか。この作業は、私に全部任せていただいても大丈夫ですし、もし挑戦されたいようでしたらお手伝いします」
理央「じゃあ、できるとこまで俺にやらせてもらっても?」
想乃「もちろん!」
理央「前奏部分にさ、ピアノ入れたいなって思ってて」
想乃「あ〜いいですね!」
理央「イメージだけ作ってきたんだけど」
理央は片手でスマホを操作し、親指でタップ。
前奏「♪〜」
想乃「いい感じだと思います!」
想乃(やっぱりセンスいいな〜。このメロディなら……)
想乃「このイメージをもとにさっそくアレンジを加えてみても?」
理央「そんなすぐにできるの?」
想乃は、キーボードの電源を付けて、音が出るか確かめる。そして、ぽろぽろと前奏を両手で弾いた。即興で奏でられる旋律に、理央は瞳の奥を揺らす。
弾き終わったあと鍵盤から手を離し、理央の顔を見上げる想乃。
想乃「こんな感じです」
理央「すげー。めちゃくちゃ良かったよ。即興でこんなに弾けるもんなんだ」
想乃「ずっと習ってたので」
理央「へぇ」
理央はキーボードの奥側に椅子を置いて腰掛け、頬杖をつく。
理央「なんか弾いてみてよ」
想乃「いい……ですけど」
理央の視線を感じ、想乃は戸惑う。
想乃(じっと見られてると緊張する)
想乃「じゃあ、一曲……」
キーボード「♪〜」
想乃モノローグ[ドビュッシー アラベスク第一番]
想乃モノローグ[ふんわりした優しい旋律が特徴の、ドビュッシーの代表的な一曲]
想乃(高校生のときにコンクールで弾いて、途中でミスして演奏を止めてしまった苦い記憶がある)
弾き終わったあと、理央がぱちぱちと拍手する。
理央「よかったよ」
想乃「ありがとう、ございます」
理央「心地よくて、眠くなる曲だね。想乃っぽい」
想乃「私っぽい……ですか?」
理央「うん、なんか安心して眠くなる感じ」
想乃(どんな感じ?)
理央「ずっと音楽やってたってこの前言ってたけど、ピアノ?」
想乃「ああ……はい」
想乃「私実はずっと、音大目指してたんです。でも、色んなコンクールに出ても結果が出なくて、他の人たちとの才能の差に打ちのめされて、ピアノの道は諦めました」
想乃(なんでこんなこと、三好さんに話してるんだろう)
理央「でも今は音楽で活躍してるじゃん。これからもこの仕事やってくんでしょ?」
想乃は首を横に振る。
想乃「ただ、趣味でSNSで曲出してるだけなので」
想乃(普通に就職した方が安定してるし)
想乃(音楽で食べていける人なんて、ほんの一握り。私がそこに入れるとは限らない)
想乃「そのうち仕事なくなって活動もやめるかもですし。それに」
想乃「……私は、好きなことで生きてく覚悟がないから」
深刻そうな表情を浮かべる想乃。理央はキーボードに両腕を乗せて、前のめりになりながら顔を覗き込む。
理央「それってさ、普通の生き方も好きなこともどっちも諦めなかったってことでしょ。すげーじゃん」
想乃「…………!」
理央「好きなことして生きてくって確かにかっこいいけどさ、夢を諦めて、王道ルートで社会人してくれてる人たちのおかげで俺みたいなのが好きな仕事させてもらえてるし」
理央「どんな道選んだって、みんな頑張ってて偉い」
理央「迷いながら、それでも曲書いてるんでしょ。想乃はすごいし、尊敬するよ」
想乃(三好さんは)
想乃(見た目だけじゃなくて、中身もきらきらしててアイドルの鑑みたい)
想乃「三好さんはすごいですね。アイドルとしてどんどん人気が出ていってて」
理央「でも安定はしてないよ。不祥事で炎上したらあっという間に干される世界だから、一年後もステージに立ってる保証はない」
理央「俺もすげー悩んでた時期あったよ。こういう仕事ってさ、なんかフツーのレールから脱した感あるでしょ」
理央「でもやっぱ、好きなんだよね。音楽」
想乃(不安になるのは、私だけじゃないんだ)
想乃モノローグ[三好さんの、人間的な一面を見た気がする]
想乃モノローグ[きらきらしてるように見えてもその裏では大変なことがたくさんある。業界にほんの少し足を踏み入れただけの私にも、分かる]
アンチコメントが脳内に浮かぶ。
アンチコメント『この曲パクりw自分で考えろよw』
アンチコメント『こいつの歌ほんと不快だわ』
アンチコメント『早く消えろ』
想乃「それでも、挑戦してきたことがすごいです。アイドルの仕事に全部、捧げてきたってことですもんね」
まっすぐな表情の理央「うん、差し出せるもんは――全部」
想乃(全部って、言い切れるのすごい)
想乃モノローグ[きっと人気アイドルになるまで、見えない苦労をしてきたんだと思う]
想乃「ありがとうございます。こんなこと、誰にも相談したことなかったので」
理央は想乃の髪をくしゃっと撫でる。
理央「お互い頑張ろーな」
想乃は頬を赤く染める。
想乃「……はい」
○大学の講堂(昼)
うとうとしながら講義を受ける想乃の隣で、瑠莉香が呆れた表情を浮かべる。
想乃(昨日も編曲作業夜中までやってたから)
想乃(眠い……)
こくん、こくん、と首を縦に動かす。
先生「そこの君、この問題の答えを言ってください」
瑠莉香が想乃の肩を揺する。
呆れ交じりの瑠莉香「想乃〜当てられてるよ、起きて」
想乃「ん……え、はい!」
立ち上がった想乃は、「ええと……」と動揺する。
瑠莉香「問13」
想乃(近代精神のはじまり……? し、自然主義? 何それ、全く分からん)
ちんぷんかんぷん。
すると、反対隣の席から理央が、口元に手を添えてそっと囁く。
理央「19世紀後半、フランスのエミール・ゾラが提唱」
想乃「……! じゅ、19世紀の後半に、フランスのエミール・ゾラが提唱……しました」
先生「正解、座ってください。それから、授業中に居眠りしないように」
講堂内にくすくすと笑い声が響く。
顔を赤くした想乃「す、すみません……」
着席して理央の方を見ると、彼はマスクを下にずらして目配せする。
想乃(三好さん……!?)
一方、理央を目の前にした瑠莉香は、瞳にハートを浮かべてメロメロになっていたのだった。
○大学の廊下(昼)
授業後、想乃は理央に話しかけにいく。理央は四人の男子学生と一緒にいた。
想乃「あの……!」
理央「ん?」
想乃「さっきは、ありがとうございました」
理央「いーよいーよ。てか、ちゃんと答えたのに居眠りバラされたのどんまい」
顔をしかめる想乃「うっ……」
想乃(傷えぐらないで~)
すると、男子グループのひとりが想乃の顔を覗き込む。
男子生徒1「何この子、理央の知り合い?」
男子生徒2「かわいい。彼氏いんの?」
想乃「え、私は……」
想乃が戸惑っていると、理央が庇うように前に立つ。
理央「そー知り合い。いい子だからお前らは手出すなよ」
男子生徒2「はは、何それ俺ら全然信用されてねー」
理央「ちょっと話してくから先行ってて」
男子生徒1「おー」
残された想乃と理央
理央「びっくりさせてごめん、あいつら悪い奴らじゃないから」
想乃「いえ、大丈夫です。三好さんもこの講義受けてたんですね」
理央「うん。もうかなり欠席してるからテストやばいけど」
想乃「もしよかったら、ですけど」
想乃「三好さんが休んだときの板書、送りましょうか?」
理央「いや、さすがにそれは悪い」
想乃「遠慮しないでください。誰かに送るってなった方が、集中できそうですし」
理央「でもどうやって送るの?」
想乃(あ……そっか)
想乃(いつもマネージャーさんを通して連絡してたから、三好さんの連絡先、知らないんだ)
想乃(なんかこれ、連絡先聞くための口実みたいになってるんじゃ)
理央「じゃあ、連絡先交換しよ」
想乃「!」
理央は背を丸めて、想乃の耳元で囁きかける。
理央「でも大学(ルビ:ここ)じゃ目立つから、次に事務所来たときで。あと、ちゃんと寝ろよ」
理央は「またね」と言って去っていく。そして、想乃の手には蒸気であっためるアイマスクの袋が。
想乃(さりげない……)
○事務所の前(昼)
ある日、学校帰りに事務所に行くと、事務所の前で理央のマネージャーが行ったり来たりしていた。
想乃「あれ……? 三好さんのマネージャーさん、ですよね?」
マネージャー「ああ、ソノ子さん……! いつもお世話になっています」
想乃「何かお困りですか?」
マネージャー「実は撮影で必要な台本をスタジオに忘れていったみたいで。自分はこれから会議があるんでどうしたものかと……」
マネージャーは額を手で抑えてかなり焦っている様子。
想乃(マネージャーさん、すごい焦ってる)
想乃(台本ないと、困るよね)
引き:想乃「あの……よろしければ私が届けてきましょうか?」



