ふたりで唄うラブソング

【第一章】


〇アパートの一室(朝)
早川想乃:大学三年生の20歳。身長161cm 緩く巻いたグレージュの長い髪。
クールで綺麗系の顔立ち。でもかわいさも同居している。
デスクのディスブレイを見つめ、ミニ鍵盤を弾く。
ヘッドホンをつけた想乃モノローグ[早川想乃 東京の大学3年生]
想乃モノローグ[小さい時からピアノを習ってて、漠然とピアニストを夢見てた。音大に行こうと思ってたけど、才能がなくて諦めた]
回想として、コンクールで賞をとっている幼馴染(この後登場する紗彩)を見つめる想乃のコマを入れる。
想乃モノローグ[文系に進学したものの、音楽はやめられなくて]
想乃モノローグ[大学に通いながら趣味で作曲をして、SNSに投稿している]
想乃モノローグ[たまにバズったり、アーティストに楽曲提供することも]
想乃(良いメロディできた)
想乃「よし」
想乃(投稿しよ)
スマホを操作して縦スクロール動画投稿アプリに曲を投稿。窓の外に日が昇っており、ちゅんちゅんと鳥がさえずる。
想乃(朝)
想乃(…………)思考停止。
白紙のレポートに、頭を抱えて天井を仰ぐ。
青ざめる想乃(やばい。夢中になってレポート忘れた。授業までにはギリ間に合う…? いや、間に合わせる)
想乃モノローグ[思い描いていた大学生活とは違ったし毎日大変だけど、楽しく過ごしている]
レポートを書く想乃。スマホの画面には、80件のいいね♡がついていた。
コメント『ソノ子ちゃんの曲最高〜(絵文字)』
コメント『毎日リピートしよ!』
コメント『え、すきすぎる』
スマホを手に取り、想乃は嬉しそうに微笑んだ。

〇大学の講堂(昼)
授業前、席に並んで座る想乃と瑠莉香。瑠莉香は片付けをしながら言う。
瑠莉香「まーた課題忘れたの? 単位落とすよ? 必修なんだからちゃんとやんないと」
瑠莉香(るりか):想乃の友達。切りっぱなしボブで、くりっとした瞳に長いまつ毛が特徴の、華やかな雰囲気。
焦る想乃「やばいよほんと……やばい、ほんとにやばい」
想乃(結局レポートは途中までしか終わらなくて諦めた)
瑠莉香「語彙がやばいしかない人になってるよ」
瑠莉香「眠そうだね。夜更かし?」
想乃「うん。すごい面白いアニメ見つけちゃってさ」
想乃(家族以外に、作曲やSNSのことは話してない)
想乃(瑠莉香は高校時代からの友達だけど、音楽は私の繊細な部分だから、簡単に踏み込まれたくない)
瑠莉香「あーつい気になって見ちゃうよね。縦スク動画見てると一瞬で時間溶ける」
想乃「分かる」
スマホを操作し、縦スクの動画を流す瑠莉香。
瑠莉香「最近この曲よく流れてくる。流行ってるよねー」
想乃「あ、ああ。うん」
再生される動画「♪〜〜」
瑠莉香のスマホの画面を見下ろす想乃。
想乃(私の曲……)
想乃(ちょっと恥ずかしい)
瑠莉香は顔を上げ、画面を見せてくる。
瑠莉香「今日このあと暇? 最近この店気になっててさ」
想乃「夜からちょっと予定あるけど、それまでなら空いてる! 行こ行こ!」
瑠莉香「決まりだね。夜に予定って、ひょっとして男?」
想乃「ち、違うよ。バイト!」
瑠莉香「あれ、想乃バイトしてたっけ」
想乃「んー、短期のやつだよ」
瑠莉香「ふうん」
想乃のスマホの画面に、仕事のメールが映る。
『それでは、20:00〜で××にてお待ちしております。よろしくお願いいたします。』
現在の時刻は12:00。想乃はスマホの電源を切って鞄にしまった。

〇カフェ(午後)
流行りのアフタヌーンティーセットが丸いテーブルの上に。
ドーム型のいちごムースに、透明グラスのパンナコッタ、分厚いマカロン、丸いショートケーキなどが三段になっている。
白いソファに座った想乃と瑠莉香。
想乃「かわいい〜!」
瑠莉香「ね! 来てよかった〜」
瑠莉香はアフヌンセットを写真におさめたあと、内カメにして自分たちを映す。
想乃と瑠莉香は顔を寄せて自撮りした。瑠莉香は上目がちの虫歯ポーズ。

〇街中(午後)
人混みを歩くふたり。
瑠莉香「付き合ってくれてありがと」
想乃「こちらこそ。さすがに甘くてきつかったけど」
瑠莉香「もうしばらく甘いのはいーや。とか言って明日も食べてそうだけど」
瑠莉香「今日の写真、ウィンスタに上げていい?」
想乃「うん、いいよ」
瑠莉香「じゃああとで候補の写真送るから一応チェックして」
想乃「律儀だね。適当に上げてくれていいのに」
うっと顔をしかめる瑠莉香「それやってガチギレされたことあるから」
そのとき、ビルの屋外用大型ディスプレイに、人気アイドルグループYOU:reSTELLA(ユーアーステラ、通称ユーステ)のMVが流れる。
瑠莉香は立ち止まり、ディスプレイを見上げる。
瑠莉香「あ、今日ユーステのアルバム発売日なんだ〜」
想乃「この前イベント行ったんだっけ?」
瑠莉香「うん。またツアー始まるから楽しみ。当選したら一緒に観に行こ!」
想乃「いいよ。……瑠莉香って、誰推し?」
瑠莉香「翼くん推し! ちなみに一番人気は三好理央(みよしりお)くんだよ。ほら、あの人。やっぱビジュいいー」
瑠莉香が指差した先を目で追うと、アップされた理央が汗を流しながら踊り、不敵に微笑む。
想乃「…………」
別れ際、瑠莉香は笑顔で手を振る。
瑠莉香「じゃーまたね。バイト頑張って」
想乃「うん、気をつけて帰ってね」
想乃は踵を返し、タクシーに乗って移動する。そして、大きなビル、アイドル事務所に入っていった。

〇事務所・スタジオ(夜)
想乃「今回作曲をお手伝いさせていただきます。ソノ子と申します」
理央「はじめまして、三好理央です。よろしくお願いします」
三好理央:23歳 身長178cm 金髪で、ピアスを複数つけている。女性的で綺麗な、王道アイドルの顔立ちをしている。気さくで明るく、優しい性格。
想乃(テレビで見るより、綺麗)
想乃モノローグ[三好理央、人気アイドルグループYOU:reSTELLAのメンバーで、CMや雑誌、バライティー番組など幅広く活躍している。今回彼は、グループ活動の一環で作曲に挑戦することになった]
想乃モノローグ[前に一度だけ、ユーステに楽曲提供したのがきっかけで、作曲協力の依頼を受けた]
想乃「マネージャーさんから、機材は揃えてあるとうかがってますが」
理央「一応一通りは。作曲もたまにやってて」
テーブルに広げられたパソコンや作曲ソフト(DAW)、マイクなど。
想乃「わ、私が使ってるのよりスペック高いです。これだけあれば充分です」
想乃「ではまず、曲のテーマとジャンルを決めましょうか」
理央「それならもう、考えてきてます」
理央は真剣な表情で、ノートをこちらに見せる。
想乃(びっしりだ……。恋愛がテーマ、か。ジャンルは……)
想乃「シティポップ! 私も好きです」
理央は頬杖をつき、不敵に口角を上げる。
理央「知ってます。ソノ子さんの曲、シティポップ多いですよね」
想乃「えっ、聞いてくれてるんですか!?」
理央「はい。今回の協力もシティポップ得意な方にって、マネージャーに頼んでたんです。ソノ子さんの曲、知ってたのもあるんですけど事前に全曲チェックしておきました」
想乃(プロ意識高すぎでは……!?)
理央「ちなみに、どのアーティストが好きなの? 俺は――」
理央・想乃「武藤和人」「武藤和人です」
想乃「えっ、渋いですね!? じゃあ、七森ミツキとかは」
理央「出た、シティポップバブルMAX期。分かるよ、俺も好き」
想乃「七森ミツキ、メロディはゴージャスでバブリーなのに歌詞はシリアスなのが良くて」
理央「どんだけクズ男に引っかかってるんだって心配になりますよね」
くっと顔をしかめる想乃「幸せになって……って感じです」
想乃(このジャンルについて語ることなかったから)
想乃(すごい楽しい)
理央「すみません。つい話しすぎました」
想乃「い、いえ……こっちこそ。でも、テーマとジャンルのイメージは掴めたので、次にいきましょうか」
三時間後。
想乃「お疲れ様です。サビのコード進行が決まったので、次回はAメロを考えましょうか」
理央「ありがとうございます。これって、俺ひとりのときも作業進めて大丈夫ですか?」
想乃「ぜひ。ソフトのアシスタント機能を使えば簡単にコード組めるので」
理央「ありがとうございます」
想乃「今回の曲、ダンスもつけるんですよね?」
理央「はい。でもそっちは大丈夫です。振り付けは慣れてるから」
理央「もうイメージもできてて」
想乃「へぇ……」※興味津々
理央はふっと笑って立ち上がり、パソコンを操作してコードを流す。
想乃「え、踊ってくれるんですか?」
理央「はい」
音楽に合わせて軽く踊る理央に、想乃は思わず見入ってしまう。
想乃(すごい……)
想乃(これ、どこかに全財産振り込まないといけないのでは)
想乃(レジ袋が有料でこれが無料でいいの?)
音楽が止まり、ダンスをやめた理央。彼はこちらに歩いてきて手を差し伸べる。
理央「ソノ子さんも踊ってみます?」
想乃「えっ、私は――」
手を握られ立ち上がらされる。
想乃(急に踊れなんて……)
想乃(無茶ぶりすぎる)
半ば強引に鏡の前に立つ。想乃は意を決してカクカクしたロボットダンスを踊る。
後ろから想乃の手を誘導する理央「もっと体の力を抜いて」
理央「そうそう」
想乃「きゃっ」
足がもつれてふらつく。
床ドン。床に打たないように頭に理央が手を添えてくれた。
意地悪に口角を上げる理央「下手くそ」
かあっと赤くなる想乃「……っ!」
想乃「だって、ダンスなんてやったことないですし」
クク、と理央は喉の奥を震わせて笑った。
床に並んで座るふたり。
理央「ソノ子さんって、恋愛系の詩は書かないんですか?」
想乃モノローグ[私は基本的に、恋愛の歌詞は書かない。書かないというより――]
想乃モノローグ[書けない、という方が正しい]
想乃「あー……私、ずっと音楽ばかりやってきて」
想乃「恋愛したことないんです。だから恋愛の歌は……ちょっと」
理央「なら――」
理央「アイドル推してみたらどうですか? 女の子に恋してもらうのが仕事なんで。良い歌詞書けるかもしれませんよ」
想乃の顔を覗き込んで不敵に口角を上げる。
アイドルスマイル理央「俺のこと、推してみます? ――なんて」
想乃(眩し~~)
想乃(そりゃあ、たくさんファンがいるわけだ)※納得
帰り際。想乃はスタジオの扉の前で挨拶する。
理央「今日はありがとうございました」
理央「いい歌詞、書けるといいですね」
想乃「はい。また次もお願いします」
ビルを出た想乃。
想乃(三好さん。気さくで良い人だったなー)

〇大学の敷地(昼)
石畳の道を歩いて、食堂に向かう想乃。
理央「あれ……ソノ子さん? あ、やっぱり」
顔を上げると、理央が身をかがめて想乃の顔を覗き込んでいた。帽子を被り、サングラスをかけているが芸能人オーラは隠しきれていない。
理央「この前はどうも、ソノ子さん」
想乃(どうして)
引き:想乃(どうしてうちの学校にいるの――!?)