昨日の友は、今日の旦那様

 ケンジの口から、ちゃんと聞きたいと思う。
 突然すぎて、これでは想われているという実感がまるでない。

「じゃあ、そのひとつしかない理由っていうのを教えてよ」
「言わせるなって⋯⋯恥ずかしいじゃん」
「200字以内で述べなさい」
「俺、長文読解は苦手なんだ。担当も理系科目だし」
 教育学部だったケンジは、中学の数学教師を経て、今は学習塾を経営している。
「では、2文字か3文字で答えよ」
 すると、ケンジはペンを取り出し、私の手に143と書いた。
「はい。これでいい?」
 その数字の意味が、I LOVE YOUであることならば、わかっている。
 わかっていても、これではちっとも想いが感じられない。
「私、数学が赤点だったのね。これ何の数字?素数?」
「えーと⋯⋯本気で言ってる?」
「もちろん」
「143は素数じゃないよ。因数分解の基礎、教えようか?」
「結構です」