「はー……」

「あれ、片桐くんがため息なんて珍しい〜。恋煩い?」

「黙れください先輩」

「怖い怖い」



委員会中なのにも関わらず声をかけてくるのは、一つ上の咲坂穂乃莉(さきさかほのり)先輩。

図書委員長で、とりあえず気さく。
俺に媚を売らない数少ない女の一人だ。



「今日は部活ないんだっけ?」



俺は男子バスケットボール部に入っている。



「そうですけど。また忘れたんですか?」

「ごめんごめーん、最近物忘れがひどくてさぁ」



……年寄りかよ。



「そんなんでよくカルタ部で生きてられますよね」

「百人一首は別だしー!私の大好きなのはね、『花の色は 移りにけりな いたづらに……』」

「それ聞くの100回目なんで」