悲劇のセイレーンにささやかな愛を






朝。

俺は朝食ができたことを知らせに澪の部屋へ向かう。



「澪、起きて……は?」



ドアを開けた瞬間その光景に立ち止まった。

体育座りになり、ベッドの横の壁にもたれながら眠っている澪。

……なんで寝てないんだ?

いや寝てるんだろうけど、体勢が……。
澪は今までずっとこの姿勢で寝てきたということか?



「おい澪、起きろ」



ベッドに腰掛けて肩を叩くと、ピクリと震わせて目が開いた。

かと思えば。



「……っ!」

「え……?」



急に両腕で頭を庇うような仕草をした彼女。

俺は謎のショックを受ける。

拒否られた……?まじか、え?

数秒間そのままぐっと目を瞑っていた後、我に返ったように力が抜けた。



『ごめんなさい』



嫌だったわけではない(?)らしい。



「いや……朝食できたけど、食う?」



戸惑いながら聞くと、何事もなかったように顔を輝かせて頷く澪。

きっと悪夢でも見ていたのだろうな。
こういう時は深く聞かず、そっとしておく方がいい。

澪には笑顔でいて欲しいし。

そんなことを、目玉焼きを頬張る彼女を眺めながら思った。