悲劇のセイレーンにささやかな愛を




「……ふふっ」

「!」



一瞬目を丸くした後、彼女が……笑った。

それは本当に綺麗な笑顔で、俺はまた少し固まった。



『つるぞの みお  あなたは?』



漢字の上にひらがなを書いた後、名前の横に書いた疑問文。

つるぞの……そんなん分かる訳ねーだろ……。



「俺は、片桐紫水。漢字はこう」



渡された木の枝を持ち、砂浜に刻む。

字のお手本のように綺麗な澪の文字の隣に書くのが、少し恥ずかしい。



「……」



じぃっとその名前を見つめていた彼女は、「しすい」と口を動かした。



『綺麗な名前なんだね』

「そうか?よく女子みたいって言われる」

『確かに』

「確かにって」