悲劇のセイレーンにささやかな愛を




それは、まるで本当に時間が止まったかのように。
波が打ち寄せる音も、遠くに聞こえて。

俺と彼女は、数秒間見つめ合っていた。


切れ長で長いまつ毛が縁取った目。
右目のすぐそばにはほくろがある。

一度も陽に当たったことがないのではないかと考えるくらいに、彼女の肌はどこもかしこも真っ白で。

同じく白の無地のワンピースを着ていて、それもまた漆黒の髪を際立たせている。

今にも折れてしまいそうな手足は華奢、と呼ぶのもおこがましい。


一瞬、女神かと思った。
海からやってきた女神。

それくらい、彼女は本当に整った容姿をしていた。

……なぜだろう。
いつもは俺に群がる女子には何も感じないくせに。



「あの、」



声を発したのは俺だった。



「何を……してたんですか」

「……」



ダメか。
いや先に聞くことがあるだろ。