悲劇のセイレーンにささやかな愛を




「〜、〜〜〜」



どこからか、小さく声が聞こえてきて。
俺ははっとし、立ち上がった。

それは本当に微かな声で。
何かの歌を口ずさんでいて。

耳を澄まし、聞こえてきた方向に顔を向けると。



──大きな岩の上に、誰かが座っていた。



顔が見えないのは、こちらに背を向けて座っているからというのもあるけど。

腰くらいまである黒い長い髪が、彼女の姿を覆っていた。



「……あなたへ……会いに……いつ……か……」



断片的に聞き取れた歌詞は、どこか寂しげで。

なぜなのかは分からないけど、何かに引かれて。

少しずつ近づいた時に、俺の足音に気付いたのか。



「──っ、」



彼女が、振り返った。