左からKiss me!

私が彼の顔に手のひらを向ける「掌底」と言う技を繰り出しても、彼はすっと右に避けてしまう。柳が風にふうわり揺れるように。
ハイヒールでローキックをしようとした脚は太ももの硬い筋肉で止められた。それでもストレートパンチを繰り出そうとする右手を柔く握られ、
唇にちゅうっとキスをされる。
(あま!!
コイツ、口の中にキャラメル入れてる。日本製のあずき味)

「俺に口紅を塗られるのはいやか」
「いやに決まってるでしょ!」
「ふうん?」
声を張り上げる私に彼がニコッとほほ笑みかける。底意地の悪い絶対零度の笑みだ。
このオフィスの住人たちは一度ランチへ行ったらなかなか帰って来ない。彼も私も、そのことをよぉく知っていた。
背中にピリッとした緊張を感じた瞬間、
「ひっ!」
つめたい指が私の鎖骨に触れた。な、何!?

「あっ!」
私はスーツの内ポケットから小さな丸い鏡を出して自分の鎖骨を見る。
「あなた! こんなところに口紅を!」
「物分かりが悪いからだ」
「ふざけないで! 早くメイク落としを、
んっ!」
いきなり強くアゴをつかまれ、唇に強引にキスをされる。
「……」
心の準備の出来ないまま一方的に奪われ続ける甘ったるいディープキス。彼はキスが上手い。口の中に甘い甘いキャラメルを仕込んでいるからますます甘い。甘くてとろけそうだ。
そう。かんたんに私をとろとろに溶かしてしまう。生キャラメルが口の中ですうっと溶けるように。
そして、

彼と寝たこの何度かの間に、私はすっかり彼のキスに魅了され、キスをされると自然と全身の力が抜けてしまう。