ミネソタの空は白く、今にも雪が降り出しそうだ。
私は超高層ビルをつなぐスカイウェイの中をさっそうと歩く。
ブリティッシュブランドの水色のパンツスーツ。ウエストをしぼったもの。白いワイシャツの胸は少し大きめに開ける。
左手首には日本製の腕時計。ベルトが細くて盤が丸く小さい。シンプルで綺麗。
すっきり上げた前髪と、後ろでシニヨンにまとめた黒髪。桜の花の形をしたシュシュを添えて。完ぺき。
「おはようございます」
そう、今の私は何もかもが完ぺき。
目の前のこの男の存在を除いては -
「では、
夏期に発売されたうちのオーガニック素材の新作ティントリップの売り上げについてですが、」
右手にタブレット、左手にタッチペンを持った彼が大きなスクリーンの横に立っている。スクリーンに映っているのはうちの化粧品会社が今年の7月に発売した新作の口紅の売り上げデータだ。
大会議場には上役を含む営業部、商品開発部、販売促進部、経理部の精鋭たちがそろっている。みな一様に手元のタブレットを観ている。私も同様に。
「今回、色の数を大幅に絞ったことで市場価値が上昇、購買意欲を誘いました」
彼は販売促進部、略して販促部の若きホープだ。昨年の春、日本支社からここミネソタの本社に栄転となり、
流暢な英語を駆使しながら斬新な企画を立案し、社内でも将来を期待されている。英語のほかに中国語とフランス語も堪能だ。
つまり、
今まで販促部の期待の新人であったはずの私が、
かすんだ。
私はとても面白くない。口の中でつい舌打ちをしてしまう。
彼は私と同じくブリティッシュブランドのスーツを好み、腕時計も同じく日本のブランドを好む。今日はノーブルなブルーグレーのスーツにふんわりとしたクリーム色のワイシャツを合わせている。腕時計はスマートで小さいもの。主張は強くないが機能は一流だ。
さっぱりと短く切った黒髪。つるんとした白い富士額が見える。
眉は細めに剃っていて、つり目。細かいまつ毛はまるでアイラインを上下に引いたようだ。
高く細い鼻。サンゴ色の薄い唇。歌舞伎役者みたい。身長は180センチメートルを超えているが、やせ型で筋肉質、肩幅もそんなに広くないのであまり大きく見えない。ただ、手足は長い。フィギュアスケート選手みたいだ。
威圧感がなく常に柔和な雰囲気をまとっている。声は少しハスキーなテノールで耳に心地よい。(それがクセモノだ)
「ここまでで何か質問はありますか」
生まれた時からこうなんですよ、とでも言いたげなさわやかな笑みを見て、私は眉間に深いシワを寄せながら手を挙げる。
私は超高層ビルをつなぐスカイウェイの中をさっそうと歩く。
ブリティッシュブランドの水色のパンツスーツ。ウエストをしぼったもの。白いワイシャツの胸は少し大きめに開ける。
左手首には日本製の腕時計。ベルトが細くて盤が丸く小さい。シンプルで綺麗。
すっきり上げた前髪と、後ろでシニヨンにまとめた黒髪。桜の花の形をしたシュシュを添えて。完ぺき。
「おはようございます」
そう、今の私は何もかもが完ぺき。
目の前のこの男の存在を除いては -
「では、
夏期に発売されたうちのオーガニック素材の新作ティントリップの売り上げについてですが、」
右手にタブレット、左手にタッチペンを持った彼が大きなスクリーンの横に立っている。スクリーンに映っているのはうちの化粧品会社が今年の7月に発売した新作の口紅の売り上げデータだ。
大会議場には上役を含む営業部、商品開発部、販売促進部、経理部の精鋭たちがそろっている。みな一様に手元のタブレットを観ている。私も同様に。
「今回、色の数を大幅に絞ったことで市場価値が上昇、購買意欲を誘いました」
彼は販売促進部、略して販促部の若きホープだ。昨年の春、日本支社からここミネソタの本社に栄転となり、
流暢な英語を駆使しながら斬新な企画を立案し、社内でも将来を期待されている。英語のほかに中国語とフランス語も堪能だ。
つまり、
今まで販促部の期待の新人であったはずの私が、
かすんだ。
私はとても面白くない。口の中でつい舌打ちをしてしまう。
彼は私と同じくブリティッシュブランドのスーツを好み、腕時計も同じく日本のブランドを好む。今日はノーブルなブルーグレーのスーツにふんわりとしたクリーム色のワイシャツを合わせている。腕時計はスマートで小さいもの。主張は強くないが機能は一流だ。
さっぱりと短く切った黒髪。つるんとした白い富士額が見える。
眉は細めに剃っていて、つり目。細かいまつ毛はまるでアイラインを上下に引いたようだ。
高く細い鼻。サンゴ色の薄い唇。歌舞伎役者みたい。身長は180センチメートルを超えているが、やせ型で筋肉質、肩幅もそんなに広くないのであまり大きく見えない。ただ、手足は長い。フィギュアスケート選手みたいだ。
威圧感がなく常に柔和な雰囲気をまとっている。声は少しハスキーなテノールで耳に心地よい。(それがクセモノだ)
「ここまでで何か質問はありますか」
生まれた時からこうなんですよ、とでも言いたげなさわやかな笑みを見て、私は眉間に深いシワを寄せながら手を挙げる。



