長い夏休みも終わりに近づいた頃、初めてのバイト代の中の5万円をおろして、時計を買ってもらった店にさくらは出かけた。
指輪を見ていると前に話した店員さんがいたのだ。
「いらっしゃいませ」
にっこりと微笑んでくれた。
「あの、ピンキーリングを合わせたいんですが」
ケースからいくつか出してくれた。
値段も色々あったが桜のモチーフのピンキーリングを見つけたのだ。
もちろん名前がさくらっていうのもある。
「あの、この桜の指輪がいいです」
「どちらの指に合わせますか?」
さくらは迷ったが
「左の小指で……」
店員さんに指輪をはめてもらいサイズを確認した。
「ピッタリですね」
「はい、じゃあこれでお願いします」
予算内でなんとか買える値段だった。
もっと安いのはネットや他店でもたくさんあっただろうけど、話を聞いたこのお店でさくらは買いたかったのだ。
保証書とケースを用意してくれている間、さくらは春に聞いた店員さんの話を思い出していた。
『右小指は自己表現力をアップするとか、魅力を引き出したり、新生活で新しい人間関係を築きたいなら右に……』
『左小指はチャンスや幸運を引き寄せたい時、あと、素敵な恋も引き寄せたり、願いを叶えてくれるとかの意味があるんです』
『そして、左手の小指はチャンスや運の入り口なんですよと……』
自分でチャンスを掴みたい!と、何のためにこの大学を選んだの?と指輪の意味を聞いた時に強く思ったのだ。
それなのに部活は無理だったし、初めて佐野くんに会ったのが注意した時でちょっと気まづくて、もうダメだと思ったがカフェの件で偶然だけど接点が出来たのだ。
それもまたチャンスだ!
お直しは必要なくてその日に持って帰れる事になったので、さくらは嬉しくてそのままリングをはめて家に帰ってきた。
バイトも楽しかったし、これからも週末はバイトを続けることにした。
夏休みが終わる……そして夏休みが終わると佐野くんに会える……
とりあえず1度は話せるのだ。
仲良くなれますように……
来週から始まる後期が楽しみだった。



