引っ張って連れて来たもののエレベーターの中は会話はない…

佐野くんが機嫌が悪いのはすぐわかったからさくらも会話が出来なかった。

(嫌わられるかもしれない…)

無意識にギュッと左小指を触っていた。

とりあえず家にいれてコップを渡した。

「手洗い、うがいして、はい」


何も言葉を言わず遥海は黙ってコップを受け取る。

うがいをしているとゴホッゴホッと咳こんだ。

「喉痛いんでしょ?」

咳こんだのでさくらは遥海の背中をさすっていると手首をつかまれた。


佐野くんの顔がゆっくり近づいてくる。


長い前髪からは細めた目が少し見えた。

怖いとは思わない、むしろ色気があると思ってしまう。

次のバイト代で髪を切るって1ヶ月前に話してたのに切ってなかった。

さくらはゴクンと唾を飲み込んだ。

「い、いいよ、キスして風邪をうつす?佐野くんが元気になるなら…よ、喜んで、ほら、よく言うでしょ?風邪は人にうつすと治るって…」

少し震えた声で、早口で…さくらは話しかけた。

もちろん本音だ。


遥海はさくらの口唇の前でピタっと止まり手首を離し、もう一度うがいをして、顔を洗った。

(ほら、やっぱり優しい)

さくらがタオルを差し出すと遥海は黙って受け取り顔を拭いた。

しんどくてイライラしてるけど早く熱を下げなきゃ。

買ってきてすぐに冷凍庫に入れたソーダ味のアイスを渡した。

「冷たくて気持ちいいから食べて(笑)」


袋を開けて持っているとシャリっとかじってきて、さくらからアイスを受け取った。

「座って食べて」

カウンターの椅子に佐野くんは座り、アイスを食べ、食べ終わると肘をついてボーッとしていた。

その視線はカウンター内にいるさくらを見ていた。