伝えたい想いは歌声と共に

 部室に戻ってきた私たち。その間に漂う空気は、重いままだった。
 そんな中、先に口を開いたのはユウくんだ。
「俺の家のことは、いつから知ってたんだ?」
「……ユウくんが、亡くなった後。大人の人達が話しているのが聞こえてきたの」
 ユウくんのお父さんが、まともに面倒を見ようとしていなかったとか。遺品を人に渡していたのは、処分する手間を省きたかったからだとか。ユウくんの親権争いのため頻繁に戻ってきていたはずのお母さんが、お葬式には顔も出さなかったとか。色んな噂が、小さかった私の耳にまで入ってきた。
 最初それを聞いた時は、とても信じられなかった。
 けど嘘だと思うには、周りから聞こえてくる声は、あまりにも大きすぎた。
「そっか……」
 ユウくんが、苦しそうにつぶやく。
 ユウくんが、このことを隠したがっていたのは、私にもわかる。
 なら私も、何も知らないふりをしておいた方がよかったのかも。
 けど、そう思っても遅い。
「ねえ藍。俺のこと、軽蔑した?」
「えっ、なんで?」
 どうしていきなりそんなことを言い出すのかわからない。
 けどユウくんは、ゆっくりと続ける。
「そんな大事なことを、ずっと隠してきたんだ。それに言ったよな。誰かを好きになっても、いつかは別れるかもしれない。そんな風に考えるって。俺の家の事情を知れば、その理由もだいたいわからないか?」
「……それってやっぱり、お父さんやお母さんの事が原因なの?」
 話しながら、胸が苦しくなっていく。
 ユウくんの心の中の、人には触れられたくない部分を、さらに暴いていってるんじゃないか。
 そんな思いがどんどん広がっていく。
「ああ。好きになっても、いつか気持ちが変わるんじゃないかって思ってしまう。俺の両親だって、昔は仲が良かったけど、最後は愛情なんて欠片も残っちゃいなかった。すっかり変わってしまった」
 目の前で家族が壊れていくのを目の当たりにしてきたのなら、誰かを好きになるのが不安になるのも、無理はないのかもしれない。
 だけど私は、それを認めるのが嫌だった。
「で、でも、みんながみんなそうとは限らないじゃない。誰かを好きになって、ずっと変わらずに好きでい続ける人だって、たくさんいるもの」
 私だってそうだ。
 ユウくんが亡くなってからも、今だってその想いは変わらない。
 好きって気持ち、変わる人だっているけど、ずっと持ち続けている人もいるんだって、わかってほしかった。
 だけどユウくんは、それを聞いて首を横に振る。
「他の誰かなら、そう信じることもできたかもしれない。けど、俺はどうかな。俺は、いずれ大切な人を嫌ってしまうかもしれない。いつからか、そう思うようになったんだ」
「そんな、ユウくんはそんなことしないよ!」
 叫ばずにはいられなかった。
 そんなの、全然納得できない。ユウくんはそんなことになるなんて、想像もできない。
「どうかな。昔は大好きだったはずの両親のことも、もう家族だなんて思えない。それに気づいた時、俺だってあの両親と同じかも思って、自分が嫌になった」
 そこまで言ったところで、ユウくんは深くため息をついて項垂れる。
「おかしいな。本当は、こんなところまで話すつもりじゃなかったんだ。藍には、俺がこんな奴だって知られたくなかったから」
 ユウくんの家の事情は、とっくに知っていた。
 だけどいざこうして本人の口から語られると、想像していたよりも遥かに重く感じた。