鞄と楽器を手に、私たち三人は校舎を出る。
ちなみにユウくんは、校舎の中では上履きを履いていたけど、いつの間にか外用の靴に変わってた。
三島が言うには、幽霊の格好ってのは本人のイメージによって作られるみたいなんだって。
さすが、幽霊のことは私たちより全然くわしい。
「それにしても、全然部活の話出来なかったな」
校門をくぐったところで三島が言う。
そういえば、途中から軽音部の事はすっかり忘れてた。
それを聞いて、ユウくんが謝ってくる。
「時間とらせて悪かったな」
「ううん。ユウくんのせいじゃないって」
「いや、どう考えても俺が原因だろ」
う〜ん。そんなこと無いって言うのは、さすがに無理があるかも。
「どうせ部員はゼロで、俺達以外の見学者もいなかったんだ。入部するのが一日遅れても問題ないだろ」
「そうそう。だから、全然大丈夫だよ」
三島の言葉に、私も乗っからせてもらう。
それからユウくんは、三島と、彼の持ってる荷物に目を向けた。
「そういえば、三島も軽音部に入るんだよな。肩に担いでいるのはギターか?」
「まあな」
「ギター歴は長いのか?」
「いや、まだ始めて半年くらいだ」
そういえば、さっきユウくんと二人だけで話してた時、三島の話をしかけたっけ。
ユウくんも元軽音部員として、新入部員である三島のことが気になるみたい。
「半年? 確か、藍がベースを始めたのも、そのくらいだったよな?」
「うん、凄い偶然でしょ。それまで全然音楽に興味あるように見えなかったから、驚いたよ」
「へぇ。偶然ねえ……」
その偶然のおかげで、部員が私だけじゃなくなるんだから、嬉しいよ。
でもそれを聞いたユウくんは、なんだか意味ありげに三島を見る。
どうしたの?
「……なんだよ」
「いいや、なんでも」
二人がそんな言葉をかわして、一瞬、微妙な空気が流れたけど、やっぱり私には、どういうことだかさっぱりわからなかった。
そうこうしているうちに、分かれ道に差し掛かる。私やユウくんの家はここから右。三島の家は少し離れているから、彼とはここでお別れだ。
するとそのタイミングで、ユウくんが思いついたように言った。
「そう言えば、つい癖でここまで来たけど、俺はこのまま自分の家に帰るべきなのかな?」
「あっ……」
そういえばと、みんなの足が止まる。
それから、真っ先に口を開いたのは三島だった。
「えっと……自分がいなくなった後の家族を見るのは、嫌か?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどな」
三島が、ちょっぴり聞きづらそうに尋ねる。
だけど私は、それとは違うことを考えてた。
ユウくんの家と家族について、とても大事なことをまだ言ってなかった。
「あの……ユウくん。ユウくんの家、あの後引っ越したんだ」
「えっ?」
ユウくんが亡くなってから一年も経たないうちに、ユウくんのお父さんは、この街を去っていったの。
「ごめんね。本当はもっと早く言わなきゃいけなかったのに」
これじゃ家に帰ることも、家族の姿を見ることもできない。
けどユウくんが気にしたのは、それと別のところだった。
「困ったな。そうなると、今夜はどこで過ごそうか?」
「気にするとこそこかよ! いや、それも大事だけど、その……家族に会いたいとか無いのかよ?」
家族よりも、今夜寝る場所。
そんな発言を聞いて三島が声をあげるけど、ユウくんは、あまり気にしていなかった。
「うちの親、放任主義だったから。それに、会いに行っても、俺が見えないんじゃどうしようもないだろ」
「けどよ……」
三島は納得いってないみたいで、まだ何か言おうとする。
だけど、それを見て私は焦った。
(ユウくんがこう言ってるんだから、この話は終わりにしなきゃ)
これ以上、ユウくんの前で家族の話を続けるのは、よくないって思った。
何か、何か話題を変えなきゃ。そこまで思ったところで、後は考えなしに叫んでた。
「か、帰る場所が無いなら、私のうちに泊まればいいじゃない!」
その声があまりに大きかったせいか、ユウくんも三島も、ピタリと話すのをやめる。
とりあえず、これで話を変えるのには成功。そう思った、その時だった。
「いや、待て! まずいだろそれは!」
突然、三島が大声で叫び出す。そして、私に向かって詰め寄ってくると、ユウくんから引き離して、小さな声で囁く。
「お前、本気か? 泊めるって、相手は男子だぞ」
「う、うん。そうだよね……」
実を言うと、三島に言われるまでもなく、とんでもないことを言ったんじゃないかって気にはなってた。
だって、男の子を家に呼んで、しかも泊めるんだよ。さらに、その相手は初恋の人、ユウくん。改めて考えると、緊張して心臓が破裂しそうなくらい音を立てている。
で、でも、だからって今さらやめるなんてできないよ。
「ゆ、ユウくんがうちに来るなんていつものことだったし、泊まるのだって初めてじゃないから」
休みの日の前とかに、今日はずっといてほしいっておねだりして泊まってもらったことがあったんだよね。
うぅ….今思うと、かなりワガママなこと言ってたかも。
「初めてじゃないって、そんなのまだ小さかった頃の話だろ。その頃と今とじゃ違うだろ」
それは、私もそう思う。
ユウくんは、こんなこと言われてどう思ってるかな? 三島から視線を移して、恐る恐る反応をうかがう。
「ゆ、ユウくんは、どう思う?」
「ありがたいけど、いいのか?」
迷惑にならないかって感じで、聞き返すユウくん。だけど私みたいに動揺した様子は少しもなく、平常運転って感じだった。
私はこんなにドキドキしてるのに、なんだか複雑だよ。
けど、今はそんなこと言ってる場合じゃないよね。ユウくんがこれからどうするかは、ちゃんと決めなきゃいけないんだから。
「このままじゃ、行く場所が無いんでしょ。そんなの放っておけないよ」
幽霊になったユウくんが行けそうな場所なんて、そう簡単に見つかりそうにない。
それならやっぱり、うちに呼ぶしかない。
「それじゃ、お世話になってもいいかな?」
「う、うん」
こうして、ユウくんがうちに泊まるのが決まった。
心臓が、もう一度大きな音を立てる。
そんな私たちを見ながら、なぜか三島は、複雑そうな表情を浮かべていた。
ちなみにユウくんは、校舎の中では上履きを履いていたけど、いつの間にか外用の靴に変わってた。
三島が言うには、幽霊の格好ってのは本人のイメージによって作られるみたいなんだって。
さすが、幽霊のことは私たちより全然くわしい。
「それにしても、全然部活の話出来なかったな」
校門をくぐったところで三島が言う。
そういえば、途中から軽音部の事はすっかり忘れてた。
それを聞いて、ユウくんが謝ってくる。
「時間とらせて悪かったな」
「ううん。ユウくんのせいじゃないって」
「いや、どう考えても俺が原因だろ」
う〜ん。そんなこと無いって言うのは、さすがに無理があるかも。
「どうせ部員はゼロで、俺達以外の見学者もいなかったんだ。入部するのが一日遅れても問題ないだろ」
「そうそう。だから、全然大丈夫だよ」
三島の言葉に、私も乗っからせてもらう。
それからユウくんは、三島と、彼の持ってる荷物に目を向けた。
「そういえば、三島も軽音部に入るんだよな。肩に担いでいるのはギターか?」
「まあな」
「ギター歴は長いのか?」
「いや、まだ始めて半年くらいだ」
そういえば、さっきユウくんと二人だけで話してた時、三島の話をしかけたっけ。
ユウくんも元軽音部員として、新入部員である三島のことが気になるみたい。
「半年? 確か、藍がベースを始めたのも、そのくらいだったよな?」
「うん、凄い偶然でしょ。それまで全然音楽に興味あるように見えなかったから、驚いたよ」
「へぇ。偶然ねえ……」
その偶然のおかげで、部員が私だけじゃなくなるんだから、嬉しいよ。
でもそれを聞いたユウくんは、なんだか意味ありげに三島を見る。
どうしたの?
「……なんだよ」
「いいや、なんでも」
二人がそんな言葉をかわして、一瞬、微妙な空気が流れたけど、やっぱり私には、どういうことだかさっぱりわからなかった。
そうこうしているうちに、分かれ道に差し掛かる。私やユウくんの家はここから右。三島の家は少し離れているから、彼とはここでお別れだ。
するとそのタイミングで、ユウくんが思いついたように言った。
「そう言えば、つい癖でここまで来たけど、俺はこのまま自分の家に帰るべきなのかな?」
「あっ……」
そういえばと、みんなの足が止まる。
それから、真っ先に口を開いたのは三島だった。
「えっと……自分がいなくなった後の家族を見るのは、嫌か?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどな」
三島が、ちょっぴり聞きづらそうに尋ねる。
だけど私は、それとは違うことを考えてた。
ユウくんの家と家族について、とても大事なことをまだ言ってなかった。
「あの……ユウくん。ユウくんの家、あの後引っ越したんだ」
「えっ?」
ユウくんが亡くなってから一年も経たないうちに、ユウくんのお父さんは、この街を去っていったの。
「ごめんね。本当はもっと早く言わなきゃいけなかったのに」
これじゃ家に帰ることも、家族の姿を見ることもできない。
けどユウくんが気にしたのは、それと別のところだった。
「困ったな。そうなると、今夜はどこで過ごそうか?」
「気にするとこそこかよ! いや、それも大事だけど、その……家族に会いたいとか無いのかよ?」
家族よりも、今夜寝る場所。
そんな発言を聞いて三島が声をあげるけど、ユウくんは、あまり気にしていなかった。
「うちの親、放任主義だったから。それに、会いに行っても、俺が見えないんじゃどうしようもないだろ」
「けどよ……」
三島は納得いってないみたいで、まだ何か言おうとする。
だけど、それを見て私は焦った。
(ユウくんがこう言ってるんだから、この話は終わりにしなきゃ)
これ以上、ユウくんの前で家族の話を続けるのは、よくないって思った。
何か、何か話題を変えなきゃ。そこまで思ったところで、後は考えなしに叫んでた。
「か、帰る場所が無いなら、私のうちに泊まればいいじゃない!」
その声があまりに大きかったせいか、ユウくんも三島も、ピタリと話すのをやめる。
とりあえず、これで話を変えるのには成功。そう思った、その時だった。
「いや、待て! まずいだろそれは!」
突然、三島が大声で叫び出す。そして、私に向かって詰め寄ってくると、ユウくんから引き離して、小さな声で囁く。
「お前、本気か? 泊めるって、相手は男子だぞ」
「う、うん。そうだよね……」
実を言うと、三島に言われるまでもなく、とんでもないことを言ったんじゃないかって気にはなってた。
だって、男の子を家に呼んで、しかも泊めるんだよ。さらに、その相手は初恋の人、ユウくん。改めて考えると、緊張して心臓が破裂しそうなくらい音を立てている。
で、でも、だからって今さらやめるなんてできないよ。
「ゆ、ユウくんがうちに来るなんていつものことだったし、泊まるのだって初めてじゃないから」
休みの日の前とかに、今日はずっといてほしいっておねだりして泊まってもらったことがあったんだよね。
うぅ….今思うと、かなりワガママなこと言ってたかも。
「初めてじゃないって、そんなのまだ小さかった頃の話だろ。その頃と今とじゃ違うだろ」
それは、私もそう思う。
ユウくんは、こんなこと言われてどう思ってるかな? 三島から視線を移して、恐る恐る反応をうかがう。
「ゆ、ユウくんは、どう思う?」
「ありがたいけど、いいのか?」
迷惑にならないかって感じで、聞き返すユウくん。だけど私みたいに動揺した様子は少しもなく、平常運転って感じだった。
私はこんなにドキドキしてるのに、なんだか複雑だよ。
けど、今はそんなこと言ってる場合じゃないよね。ユウくんがこれからどうするかは、ちゃんと決めなきゃいけないんだから。
「このままじゃ、行く場所が無いんでしょ。そんなの放っておけないよ」
幽霊になったユウくんが行けそうな場所なんて、そう簡単に見つかりそうにない。
それならやっぱり、うちに呼ぶしかない。
「それじゃ、お世話になってもいいかな?」
「う、うん」
こうして、ユウくんがうちに泊まるのが決まった。
心臓が、もう一度大きな音を立てる。
そんな私たちを見ながら、なぜか三島は、複雑そうな表情を浮かべていた。


