「やった! ムスティが、おともだちになってくれたよ!」

 近くにいたパッロが、ふわりと尻尾を揺らしながらやさしく笑う。一方で、リンコはムスッと横を向いたまま、ぼそりと小声で言った。

「仕方ないわね」

 リンコがムスッとしながらもつぶやいた、そのときだった。

「……ごほん、ごほんっ」

 わざとらしい咳払いが、誰の耳にも届くような音量で響いた。
 リュミたちが振り向くと、少し離れた場所で腕を組んで立っていたエルドが、眉をひくつかせながら口を開く。

「戯れているところ悪いがな、依頼の報告を忘れていないか?」

 わざわざ語尾を尖らせるようにして言いながら、視線はリュミへと向けられる。
 だがそのまなざしには、他の誰に向けるものよりもわずかにやわらかい。

 リュミは、しまった! という顔でわずかに飛び上がる。

「あっ……そうだった! 村に戻らなきゃ!」

 焦ったように声を上げるリュミを見て、エルドは少しだけ目を細めると、つぶやくように言った。

「まったく、おまえは……もう少し自分の立場というものを自覚しろ。……とはいえ、まぁ……おまえらしいとも言えるが」

 呆れたようでいて、どこか安心したような声。
 そのままエルドはふっと鼻を鳴らし、歩き出す。

「――というわけで、喋っている暇があったら足を動かせ。道草は報告が終わってからにしろ。依頼を片付けたら片付けたで、次の面倒が待っているのが世の常だ。とっとと行くぞ」

 背を向けながらも、エルドの言葉はしっかりと届いていた。
 リュミはムスティをやさしく抱き上げ、言った。

「うん、行こう。ムスティ、リンコ、パッロ、そして……エルドさんも!」

 名を呼ばれて振り返るエルド。その表情は変わらないが、耳の先がほんの少し赤くなっていたことに、リュミだけは気づいた。