「言うことを聞かなくてごめんね、リンコ。……でも、どうしても《ふわふわ》してあげたかったの」

 その瞳は、決して子どものわがままだけではない、やさしさと覚悟を宿していた。

 リュミの足元に、ふわふわの毛に覆われた藍影の魔蟲が、ちょこちょこと歩み寄ってくる。
 ときおり首をかしげながら、リュミの反応を確かめるように上目遣いで見上げる。

 リュミはそっと膝をつき、手を伸ばし、小さな背中に指先を添えた。
 その感触はやわらかくて、あたたかくて、まるでぬいぐるみのよう。思わず笑みがこぼれる。

「そうだ。名前、つけてもいいかな?」

 リュミが問いかけると、藍影の魔蟲は首をかしげた。
 そのしぐさがあまりにもかわいらしくて、リュミの頬が緩む。

「えっとね、名前があると、もっとおともだちになれるんだよ」

 リュミは少し身を乗り出して、小さな瞳としっかり目線を合わせた。

 青紫色の体、小さくて丸くて、ふわふわで……リュミの頭の中に、とある果実が浮かぶ。
 果粉のついたブルーベリー。お菓子にもジャムにもなる、やさしい甘さの果実。

「……ブルーベリーみたいでかわいいから、ムスティはどうかな?」

 その提案に、藍影の魔蟲は少し間を置いてから、ふるふると体を震わせた。
 そして答えるように、レース糸のような細く繊細な糸をクルクルと紡ぎ出しす。

 糸は宙に舞い、小さな刺繍のような模様を描いていく。
 花にも見えるし、星にも見える、美しく儚げな模様だった。

「……よろしく、リュミ」

 その声はかすかだったけれど、たしかにリュミの耳に届いた。
 リュミの瞳がパッと輝き、うれしさに満ちた笑顔が弾ける。思わず両手を叩いて喜んだ。