魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~


 指先がかすかに震える。鼓動が速くなり、喉が渇く。
 でも――それでも。

 リュミは小さく首を振った。
 恐怖に押しつぶされて立ち止まっていたら、誰かが困ったままになる。
 また誰かが、あのときのリスみたいに助けを待ったまま、取り残されるのは嫌だ。

 もうあんな思いはしたくない。誰かの無力な涙を見たくない。
 そして――自分自身も、変わりたい。

(リュミはひとりじゃない。パッロがいる。リンコがいる。エルドさんも)

 胸の奥で、小さく決意が燃える。

(こわいけど……それでも、助けたい)

「……今度こそ……」

 ぽつりとこぼれた声は、薪のはぜる音にかき消された。
 だが、リンコは聞き逃さなかった。彼女はリュミをじっと見つめて、首をかしげる。

「また無茶する気でしょ。ほんと、危なっかしいんだから」

 その声には呆れと……それ以上に、隠しきれないやさしさが混じっている。
 リュミは微笑んで、リンコのあたたかい翼にそっと手を伸ばした。

 怖くても、大丈夫。
 きっと、みんなでなら――乗り越えられる。