世界が崩れる。
その言葉だけは、聞きたくなかった。
聞いてしまったら、もう戻れない。
(……失敗作?)
喉がぎゅっとふさがれる。
涙は出なくて焼けるように熱くて、体は石のように動かない。
そのとき、背後からひどく冷たい声が響いた。
「なにしてんだ、無能」
振り向くと、兄が立っていた。
きっちりとした制服姿に、銀髪。
見慣れた顔のはずなのに、知らない人みたいに感じる。
「盗み聞きとか、品がないぞ。まあ、無能にはそれくらいしかできないか」
嘲るような笑み。
リュミは、ただ黙って見つめるしかなかった。
「バカじゃねえの。恥ずかしいよ、家族として。おまえが出ていってくれるなら、むしろ助かる」
笑っていた。
心から、うれしそうに。
「ちゃんと追い出される前に、自分で消えろよ。みっともないから」
リュミは、笑わなかった。
怒ることも、泣くことも、できなかった。



