魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~


「なんで……切れないの……? このままじゃ、この子が死んじゃう……!」

 涙がこぼれ、指が震える。リスの苦しそうな声が耳から離れない。

 べちゃっ。

 背筋に嫌な音が這い上がる。気づけば、肩から腕、足にかけて、糸がまとわりついている。

「やだ……! はなして……っ!」

 必死にもがくが、もがけばもがくほどに糸は強く、きつく絡みつく。
 視界の端で、リスがぐったりと動かなくなる。

「助けたいのに……助けられない……!」

 涙がとめどなく頬を伝い、喉がつまる。
 そんなときだった。

「ったく……危なっかしいったらないんだから!」

 甲高い声が谷に響いたかと思うと、空から赤い翼がひるがえった。
 炎をまとった流星のような光が、森の中に降り立つ。

「リンコ!」

「リュミ、じっとしてなさい!」

 リンコの翼が閃く。火花が弾け、炎が白い糸を焼き払う。
 熱は感じるけれど、痛くはない。むしろ炎はやさしく、リュミを包むようにして、拘束していた糸を消し去る。

 リスを縛っていた糸も同じように燃え尽き、ふわりとほどけていく。
 リスはふらつきながら立ち上がり、こちらを一度振り返ったあと、駆け去っていった。