リュミは一心に草むらを掻き分けて走り出した。
低い枝を手で払い、ぬかるんだ地面を蹴る。細い草の茎が頬を掠め、足元の草が絡みついて何度かよろけそうになる。
それでも、転ぶことなく前へ、前へと進む。
(あ……)
途中で、うしろにいたはずのパッロを置いてきてしまったことに気がついた。
でも、それはすぐに杞憂だとわかった。背後に彼の気配が追ってきているのを感じる。
(……パッロ)
その存在が、言葉にできない安心をリュミに与えてくれる。
大丈夫、ひとりじゃない。そう思えるだけで、足がさらに強く地面を蹴る。
そして、目の前に現れたのは――。
白い糸にぐるぐる巻きにされた、小さなリスだった。
瞳を見開いたまま体を小刻みに震わせ、かすれた鳴き声を上げている。
「……リスさん!」
リュミは迷わず駆け寄り、両手で糸を掴んだ。
「動くな、リュミ!」
パッロの声が届いたが、リュミにはもう聞こえていなかった。
ただ目の前のリスをどうしても助け隊。それだけで頭がいっぱいだった。
「う……ううっ……かたい……!」
糸はべたべたしていて、まるで生き物のように指に絡みつき、離れない。力いっぱい引っ張っても、びくともしない。焦れば焦るほど、糸は逆にリュミの手に巻きつき、体へと這い上がってくる。



