「なによ! わたしは禍翼の凶鳥! さぁ、怯え逃げ惑うがいいわ……!」

 堂々とした台詞。
 しかし、そのサイズと見た目のふわふわ感とのギャップはどうにも否めない。

「小さいな」

 エルドは、呆れとも困惑ともつかない顔で机を離れ、リュミの前に立つ。
 そして、片手でリンコをひょいと持ち上げた。まるで、羽根つきのぬいぐるみでも持つように。

「ちょっと、触らないでよ! わたしはおそろしい魔物なのよ!」

「……怖ろしい、ね」

 淡々とした声で言いながら、エルドはまじまじとリンコを観察し始める。
 赤くやわらかな羽毛に、丸みを帯びた体、ふにふにとした腹部。どこをどう見ても、魔物のイメージとはほど遠い。ましてや、禍翼の凶鳥なんて――。

 指先で軽く羽毛をつまみ、質感を確かめるように指を動かす。

「やわらかい」

「や、やめなさいよぉぉ!」

 リンコはバタバタと羽を動かして抵抗するけれど、それはまるでぬいぐるみがもがいているようで、全く迫力がない。
 側から見れば、おじさんがアヒルのぬいぐるみを検分しているよう。
 エルドの頑固な顔つきが、シュールさに拍車をかけている。

 リュミは思わず笑いそうになるのをこらえつつ、おろおろとふたりのやりとりを見守るしかない。

「え、エルドさん……怒ってる?」

「怒ってはいない。ただ……面白い」