「大丈夫。リュミ、できるよ」

 その言葉に、パッロは一瞬だけ目を閉じた。
 そして静かに、息を吐く。

 パッロはしばらく言葉を返さず、じっとリュミの顔を見つめていた。
 やがて、諦めたように目を伏せ、深く息を吐く。

「無茶をするなよ。……オレが、隣にいる」

 短く静かな言葉が、リュミの胸に、深く、やさしく染みこんでいく。
 怖さは消えない。
 心臓はドキドキしていて、呼吸も浅くて速くて、胸が痛い。

 けれど、パッロがそばにいてくれる。その事実が、リュミの背中を支える。
 リュミは、小さく息を吸い込んだ。


(ありがとう、パッロ。リュミ、がんばるよ……)

 心臓がドキドキしている。息も苦しいくらい速くて、胸を押さえたくなる。
 でも、パッロの声に背中を支えられている気がした。

 ひとりじゃない。隣にパッロがいてくれる。
 だからリュミは、頑張ろうと思える。

 空を見上げると、赤い影がひときわ大きく旋回していた。
 谷の真上、空を切り裂くように、禍翼の凶鳥が羽ばたいている。

 その風圧に髪が乱され、足元の草が波打つ。

 けれどリュミは、一歩も引かなかった。
 足をしっかりと地につけ、両手を胸の前に重ねる。

 目を閉じたその内側で、胸の奥にあたたかい光が広がっていく。