薬草を摘み終えたリュミは、ふと足元に転がっていたひとつの石に目を留めた。
それは、どこにでもありそうな、丸くて小さな、白みがかった石ころ。けれど、なぜか目が離せない。呼ばれたかのように、リュミはそっとその石を拾い上げた。
「ねぇ、パッロ。石にも《ふわふわ》できるかなぁ?」
「石に?」
パッロは眉をひそめてしばらく考え込んだあと、静かに首を横に振った。
「……たぶん難しいな。石は心を持たないから」
「そっかぁ。でも、やってみたい!」
リュミは胸の前で石をぎゅっと抱え込み、真剣な顔で目をつむった。呼吸を整え、指先に意識を集中させる。
そして、スキル《ふわふわ》を発動しようとしたけれど――。
「……あれぇ? なんにもならない……」
石はそのまま、冷たく無反応でリュミの手の中に留まっていた。
しょんぼりとうなだれるリュミの横で、パッロはやさしくと微笑み、そっと寄り添う。
「悪くない試みだったと思うぞ」
「ほんと? えへへ……」
リュミの頬がわずかに赤くなり、自然と笑顔が戻ってくる。
そのときだった。
谷の奥から、空気を引き裂くような激しい風が巻き起こる。
バサッバササッと、巨大な羽ばたきの音が谷全体に響き渡る。



