「そうだな。小さな魔物ほど素直に《ふわふわ》の影響を受ける。逆に、強い魔物や心を閉ざしている相手には、なかなか届かないのだろうな」

 パッロの言葉に、リュミは深く頷いた。
 魔物の魚は水面を漂いながら、小さな尾びれをひらひらと揺らしている。水辺に遊びに来た人懐こい魚のように、のんびりとした動きで。

「お魚さん、うれしそう」

「実際、うれしいんだと思うぞ。オレもそうだったからな」

「ふわふわって……うれしいの?」

「ああ。理由もなくイライラしていた気持ちがすーっと消えていく。心がほぐれていくんだよ。まるで、重たい荷物を下ろしたみたいに」

「……そうなんだ」

 リュミは再び、魚の魔物を見る。
 まるで「ありがとう」と言っているように見えるのは、リュミがそうだったらいいなと思っているせいだろうか。
 けれど、たしかに今――心が通じ合えた気がする。

(次は……もっと遠くの魔物にも試してみたいな)

 この森には、まだ見ぬ魔物たちが数多く棲んでいるはず。
 きっとその中には、誰にも気づかれず、心に怒りや恐れを抱えて生きている存在もいるはずだ。

(もし、そんな子に《ふわふわ》が届いたら……)

 ほんの少しでも、心穏やかに過ごせる手伝いがしたい――とリュミは思う。