「よし……やってみよう」
リュミはそっと目を閉じ、自分の中にある力を感じ取る。
胸の中心から広がるような、心地良いあたたかさ。それを意識すると、手のひらにほんのりと光が灯った。春の日差しのように、やさしく、やわらかく、すべてを包み込むような光だ。
その光を水面に向けてそっと差し出すと――魚の魔物の動きがピタリと止まる。
次の瞬間、魔物の体がゆっくりと変化していく。
赤く光っていた目が黒くなり、ギザギザの牙は引っ込み、体の輪郭はやわらかく、丸みを帯びていく。尾びれはひらひらと揺れて、まるで観賞魚のように美しい姿へと変わっていく。
「わあっ……!」
リュミは思わず声を上げた。
驚きと、そしてそれ以上の感動。リュミのスキルが、魚の魔物に影響を与えている。
魚は水面にゆらゆらと漂いながら、リュミの差し出した手を、まるで安心したように見つめ返してくる。
胸のドキドキが早くなる。でもそれは、恐怖じゃない。
これは――感動だ。
「すごい……リュミ、よくやったな」
パッロの声が、そばから聞こえる。
リュミはその言葉に、胸を張った。
「《ふわふわ》って……魔物によって反応が違うんだね」
つぶやきながら、水面の魚を見つめる。
たった今まで獰猛だった魚が、今ではまるで別の生き物のように穏やかだ。
スキル《ふわふわ》。
それは、相手の見た目だけでなく、気性までをも変えてしまう力。
けれど、その効き方は一様ではない。
相手の大きさ、強さ、性格によって、効果の現れ方が変わってくる。



