銀色に光る鱗に、赤く輝く瞳。瞳には、どこか警戒心と獰猛さを帯びた鋭い意思が宿っているように見える。そして口元には、小さくともはっきりと確認できる牙。
(……魔物⁉)
リュミの全身が一瞬で緊張する。直感的に、それがただの魚ではないと理解した。
「うわっ……!」
その魚がピクリと動いた瞬間、リュミは思わず後ずさってしまった。
まるでこちらに噛みつこうとするようなしぐさに、心臓がドキリと高鳴り、背筋がぞわりと粟立つ。
「落ち着け、リュミ。それ、たぶん欠伸だ」
「え……あくび?」
「そう。もし本当に襲うつもりだったら、とっくに水面を割って飛びかかってきてるはずだ」
なるほど、とリュミは小さく頷いた。緊張で強張っていた肩の力を抜き、深呼吸をする。
(それにしても……こんなところで魔物に会うなんて)
先日、蝶の魔物と出会ったばかりだ。
もしかしたらこの森は、リュミが思っている以上に魔物が多い場所なのかもしれない。
だが不思議と、怖さは感じない。
思いがけない出会いに、心の奥でなにかが動く。
(スキルを使ってみる、チャンスかも……)
スキル《ふわふわ》。それは、リュミだけが使える不思議な力。
奇妙で、あたたかくて、でもその正体は自分でもよくわかっていない。
だからこそ、機会があれば使ってみるべきなのではないか。



