そのときだった。
 草むらの奥から、ひょっこりと顔を覗かせたのは、一匹の虫の魔物。そして、次々に姿を見せる、小さな影たち。
 最初はおずおずと警戒するように立ち止まっていたが、やがて意を決したように、リュミのほうへと近づいてくる。

「えっ、どうして……?」

「こいつらも、ふわふわにしてほしいみたいだ」

「そう、なの……?」

 半信半疑ながら、リュミは再びスキルを使ってみた。
 すると、リュミの力がやわらかく広がり、小さな魔物たちは次々に、ふわふわと変化していく。
 毛羽に包まれた小さな体、やさしい光、コロコロとした音色――まるで生まれ変わったかのように、穏やかで愛らしい姿になっていく。

「大丈夫……ね?」

 小さな声でそうつぶやいたリュミは、不安げにパッロの顔を見上げた。
 その目に浮かぶ揺れを感じ取ったのか、パッロはやさしく尻尾を振りながら、穏やかに頷く。

「リュミが落ち着いていれば、向こうも安心するはずだ」

 その言葉は、まるで魔法のようにリュミの心をやさしく包む。
 緊張の糸がふっと緩み、代わりに、あたたかい感覚が広がっていく。

 ふわふわになった魔物たちは、それぞれの翅を軽やかに揺らしながら、静かにリュミのそばへ寄ってきた。
 足元にちょこんと座るもの、指先にちょこんと止まるもの、肩にふんわり乗ってくるもの――どの子もみんな、リュミを見つめる目がやさしくて、どこかうれしそうだ。

「すごいよ。パッロの言う通りだった!」

 驚きと喜びが入り交じった声で、リュミは振り返る。
 その表情には、かつての自信なさげな影はもうない。心からの笑顔が、そこにはあった。