魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~


(これは……なに?)

 初めてじゃない――そんな気がする。

 リュミの手のひらに、ふんわりとした感覚が広がる。
 まるでそこに、見えないなにかが集まってくるような感覚。意識するより早く、リュミの手は蝶へと伸びていた。

 そっと触れた瞬間、蝶の姿がゆっくりと――しかしたしかに、変わり始める。
 翅はやわらかな毛羽に覆われ、体の輪郭は少しずつ丸みを帯びていく。光は淡く、やさしく、まるで息をしているように揺れている。
 その姿はまるで、森の妖精のよう。

「わあ……」

 リュミは思わず息を呑む。
 手の中で蝶はおとなしく、まるでリュミを信頼しているようにじっとしている。

「すごい……これ、リュミが……?」

「ああ、リュミの力だ」

 パッロの言葉には、どこか誇らしげな響きがある。
 その言葉を聞いた瞬間、リュミの中にじわじわと実感が広がっていく。これはたしかに、リュミが成し遂げたことなのだ。

 蝶は小さくふわふわと翅を揺らし、まるで笑っているかのような表情を見せる。
 リュミはそっと指先でその頭を撫でた。

「……《ふわふわ》って、すごい……」

「《ふわふわ》じゃなくて、リュミがすごいんだ」

 パッロのまっすぐな言葉が、リュミの中の不安を吹き飛ばす。
 小さな達成感が、胸いっぱいに広がる。