その日の夜。
 リュミは寝台に横たわりながら、ぼんやりと天井を見上げていた。
 虫の声が遠くからかすかに聞こえてきて、夜の静けさをより深く感じさせる。

(リュミ、ここにいてもいいのかな……)

 そんな思いが、ふと心を掠める。
 森はまだまだ怖いことばかりだし、リュミはなにもできない。今日だって、薬草を摘むだけで精一杯だった。

 エルドに「悪くない」と言われたけれど、ここにいていいとは言われていない。

(それでも……)

 目を閉じて、今日の一日をゆっくりと思い返す。
 宝物をひとつひとつ、そっと心の箱から取り出すように。

 森の中で感じた土の感触。
 両腕に重みを感じながら歩いたあの時間。
 カゴを抱えて歩いたときの重さ。
 パッロの「よく頑張ったな」という声。
 そして、エルドの不器用だけどあたたかい言葉。

 それらすべてが、リュミの中で混ざり合い、自信に変わる。

「……がんばろう」

 小さくつぶやいたその言葉は、夜の静けさにやわかく溶けていった。