そんな想いを抱きながら歩き続けると、やがて見慣れた小さな家が木々の向こうに姿を現す。
 どこかほっとするような、けれど緊張が高まるような、不思議な気持ちがリュミの胸を満たしていく。

 玄関先には、すでにエルドの姿があった。

「……帰ったか」

 短くそう言った彼の声に、リュミは少し驚きながらも、そっと答える。

「うん……ただいま」

 エルドは無表情のまま、だがその足元にはどこか落ち着かない気配があった。
 パッロはちらりと彼の様子をうかがう。こめかみににじむ小さな汗、乱れた後れ毛、やや荒い呼吸――。 

(……ついてきたってバレないように、大慌てで帰ってきたんだろうな)

 心の中でそうつぶやきながらも、パッロはなにも言わなかった。
 リュミが「家で待ってくれていた」と思っているなら、それを否定する必要はない。
 そう思って、黙って横を向いていた。

 エルドは黙ったまま、手を差し出す。

「それを見せろ」

「は、はい!」

 リュミは少し緊張した面持ちで、抱えていたカゴを両手で差し出す。
 エルドは片膝をついて、真剣な表情で中を覗き込むと、ひとつひとつ丁寧に葉を指先でつまみ、裏を確認し、香りを確かめる。
 その動きには一切の無駄がなく、彼の本気のまなざしにリュミの心臓は高鳴るばかりだ。

 沈黙の時間が続く。
 それはほんの少しの時間なのかもしれないが、リュミには長く感じられた。