(泣いちゃだめ……ここで泣いたら、もっと、もっと……)

 悔しい。
 でも、なにより悔しいのは。

 この場にいる誰ひとりとして、リュミに手を伸ばしてくれる人がいなかったこと。

 父も。
 母も。
 兄も。
 おともだちだったはずのあの子でさえも。

 みんな、スキルでリュミを判断した。
 まるで、それが彼女のすべてであるかのように。

 スキルがすべてだと、誰かが言っていた。
 それはつまり、《ふわふわ》はなにも持たない者の証。

(そんなの、おかしいよ……)

 誰か、たったひとりでもいい。
 リュミを否定しない存在がいたなら。笑わずにいてくれる誰かがいたなら。
 この瞬間を、ほんの少しでも違うものにできたのかもしれない。

 でも、そんな奇跡は起きなかった。

 祝福の間の重たい扉が、静かに開く。
 その音は、リュミにとっての終わりを告げる鐘だった。

 帰り道、父は一言も喋らなかった。
 母の手は、冷たくリュミの手を握りしめ、兄は最初から最後までリュミを見ようとしなかった。

 屋敷に戻ると、使用人たちは視線を避け、まるでリュミが透明な存在であるかのように振る舞った。

 スキル鑑定をしたあの瞬間から、リュミの世界は静かに壊れていた。

 どうしたらよかったんだろう。
 なにが正解だったのだろう。
 いくら考えても、答えは見つからなかった。