一方そのころ。
 少し離れた木陰に身を潜め、エルドは無言のままふたりの様子を見つめていた。
 腕を組んだまま微動だにせず、その瞳には複雑な色が浮かんでいる。
 への字に結ばれていた口元は、次第にきつくとじられ、やがて一文字になる。

「……なぜだろうな」

 ぼそりと独り言がこぼれる。

「どうして、あんなことを言ってしまったんだ……」

 エルド自身にも、理由はわからなかった。
 帰れと言えば、リュミはきっと素直に帰ったはずだ。それなのに、なぜ「働け」などと言ってしまったのか。

 リュミが笑う。
 その顔が妙にまぶしくて、目を逸したくなるほどだ。

 小さな花を摘んで、心からうれしそうに。まるで、それが世界で一番尊いもののように。
 その笑顔を見ていると、胸の奥がざわつく。苦いような、あたたかいような――感情の名前が、どうしてもわからない。

「……チッ」

 小さく舌打ちして、背後の木にもたれかかる。
 だが、視線はどうしても逸らせなかった。
 どれだけ目を逸らしたくても、どうしても、彼女の姿が焼きついて離れない。